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  「景山、お前は何を言っているんだ?」  景山と呼ばれた私服姿の少年の言葉に驚き、彼は不愉快そうに口を開く。 景山君の発言に驚いたのは私も同じだった。 私を痛め付ける者達の中で唯一、彼だけが紗輝達の行動に異を唱えている。 ……もしかしたら景山君が味方となり、私を助けてくれるのかもしれない。 淡い希望を抱いて、私は地面に這い蹲った(はいつくばった)状態のまま、景山君の顔を見上げた。 「もしかしてお前、びびっているのか。噂に訊く神様ってのがやって来るとか、本気でそう思っているのかよ?」 「いや、その……神様が降りてくるとかじゃなく、お祖母ちゃんが危ないからって……」  彼の隣に立つ背の高い男子に睨まれ、景山君もそれに怯えたのか目を伏せて声量を落とし、やがて口を閉ざしてしまった。 見れば彼の周りの居る男女も、景山君へ不満気な視線を送り、肩を狭める彼へ威圧的な態度を見せている。 「景山、お前も真弥に感謝しておけよ。こいつがいなければお前をクルゥストゥス様の生け贄に捧げていたんだからな」  駄目か。唯一の希望だった景山君も彼等の高圧的な姿勢に屈し、これで儀式の生け贄から逃れる術は無くなった。 このまま生け贄にされて私はどうなるのだろう。 自分は何も報復される様な事をしていないのに。彼の嘘に騙され散々痛め付けられて、何もかもが嫌になってしまった。  もうどうなってもいい。早く楽になりたい……早く全部終わらせて欲しい。 帰宅してから起きた惨澹(さんたん)たる出来事を前に、捨て鉢となった私は両目を閉じて、静かに悔し涙を流した。 嗚咽の声を漏らす余裕も泣き叫ぶ気力も、もう残ってはいない。 「──クルゥストゥス様、深淵に座し先賢の知を賜る神様よ。どうぞ、御出で下さいませ」  経文を読み上げるかの様な、変な声が私の周りに響く。冷静に考えれば、彼等の行動も凄く可笑しな物に見えた事だろう。 ……しかし。両手両足をきつく縛られ、怪しい儀式の生け贄にされた今の状況下では、彼等の詞……一字一句すらも悍ましい物に聴こえ、私の額に汗が滲み、呼吸も乱れて心臓の鼓動も早くなる。 「我々は貴方様の知恵を賜りたく思い、迎え入れる御用意も整えました。どうか御力添えを御願い申し上げます」 「早く来ーい!」  恐らく、メモ書きから召喚の為の詞を読み上げているのだろう。 言葉を間違えない様に気を使い、彼は辿々しい口調で召喚の詞を喋り続ける。  
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