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「加納さん。この人……様子がおかしいです」
「煩いぞ、真弥! 何を一人で喚いていやがる!」
私の異変へ最初に気が付いたのは、気弱そうに見える男子……景山君だった。
地面に這い蹲い、苦しみ悶えている私の身体を誰かが触り、全ての元凶である彼も此方に罵声を浴びせ、容赦無く私の背中を踏み付けてくる。
今まで私へ好意を持っていたのも、全部嘘に感じられる様な仕打ち。
左目の痛みと気味の悪い感覚を覚えながら、私は彼の事を心の底から呪い始めた。
「こりゃ、ひょっとしたら……本当にクルゥストゥス様が降りて来たんじゃない?」
暫くの沈黙の後。背の低い短髪の女子学生が口を開き、身を屈めて正面から私と向き合った。
都市伝説の検証に成功したと思い込んでいるのか、嬉々とした表情を浮かべて私の髪を撫で上げてくる。
此方を小馬鹿にするかの様な姿勢に小さな怒りを覚え、私は彼女から目を反らした。
「こいつ、何で目から血を流しているんだ? 別に顔を百足に噛まれた訳でも無いだろうに」
「放っておきなさいよ。どうせ、よく知りもしない赤の他人なんだから」
私の怪我に気付いたのか、背の高い男子生徒も腕を組み、冷たい眼で此方を見下ろしてくる。表情を伺う限り此方を心配する積もり等、微塵も無い様に感じられた。
続く黒髪の女子学生の言葉からも、私を気に掛ける者も誰一人としていないと理解する事が出来た。
「まあまあ、クルゥストゥス様もやって来た事だし。早速、御質問を投げ掛けてみようぜ?」
男子にしては高音の声が聞こえ、軽薄そうな金髪の男子は制服のポケットから折り畳んでいたルーズリーフを取り出して、そっと私の顔の前に置く。
「あ」から「ん」まで並べて記載された平仮名と、手書きで上部に記された「イエス」と「ノー」の英単語。
左端には“デッドロック”、右端には“デッドエンド”とアルファベットで書かれた文字も見える。
学校で訊いた噂に依ると、クルゥストゥスへの質問はこの表を使って執り行われるそうだ。
デッドロックは行き詰まり、希望の無い未来を意味し。
デッドエンドは行き止まり、物事の終わりが直ぐ其処まで来ている事を示唆する。
「あが……っ!?」
差し出された表を黙したまま見つめていた私の背中を蹴って、彼はこれから出す質問へ早急に答える様促してくる。
此処で逆らえば、きっとまた酷い目に遭う。
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