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  私も大人しく彼に従い、耳を澄ませて質問を待つ。 「先ず最初に、貴方がクルゥストゥス様ですか?」  恐る恐る両手の拘束を解き、私の身体を背の高い男子と金髪の男子に押さえ込ませると、紗輝は冷たく事務的な口調で、降霊術に成功したのかどうか、喚び出した相手へ確認を行う。  彼等の言うクルゥストゥスが本当に降りてきたのか……私には分からない。 先程現れ、私の目に直接入り込んだ黒い影が、彼等の噂する“それ”なのだろうか。 「痛……っ!?」  思考を妨げる様にして私の髪を掴み、それを引き千切る程に強く引っ張りながら、彼はもう一度同じ質問を飛ばす。 首を動かして後ろを振り向き、怒りに歪んだ彼の顔を覗いて私の背筋は凍り付いた。 「……貴方はクルゥストゥス様で間違いないですか?」  私に向かって暴力を振るい語気を強める紗輝を止めようと、金髪の男子も慌てた様子を見せて口を開いた。 噂が事実ならクルゥストゥスは高位の神故に短気であり、召喚者の無礼を許さないとされる。 軽薄そうに見える男子学生も心の内で、クルゥストゥスへ畏怖の感情を抱いているのだろう。 「ちょっと、紗輝。クルゥストゥス様に乱暴するのはまずいんじゃない?」 「いいや。神様が降りようが、身体の方は唯の根暗女だ。少し位痛め付けても問題なんか無いさ」  髪を掴んだまま、私の顔を地面に向かって叩き付け、質問へ答える様促す彼に怯えて、私は恐る恐る地面に置かれた表の上に右腕を伸ばす。 例え……彼等の語るクルゥストゥスが憑り依いていなかったとしても、出された質問に答えなければ、また酷い目に遭わされる。 それだけは何としてでも避けたい。 彼の怒りを買わない様、土で汚れた顔を上げて慎重に指先を「イエス」の上へと進めた。 「嘘を吐いているんじゃないわよね?」  私の右側面に立って腕を組み、鋭く目を光らせて此方を睨む黒髪の女子学生が次の質問を出す。 周りの視線も全て私に向いている。兎に角、今はクルゥストゥスが憑依したと彼等に信じ込ませるべきだ。 そう判断して、私は隣に記載された「ノー」の英単語に人差し指を滑らせる。 「うっそ、まじで? クルゥストゥス様が本当に降りてきたの?」  何がそんなに喜ばしいのか。目を輝かせて此方の顔を除き込む短髪の女子学生から目を逸らし、私は息を殺して次の質問を待つ。 髪を掴む彼の手も離れてはおらず、力も全く緩めていない。  
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