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   死に繋がる絶体絶命の状況下。私は恐慌し、喉の奥から必死に声を絞り出そうと力を込めて足掻き始める。 嫌だ、嫌だ、死にたくない。 懇願にも近い私の悲鳴も、三人掛かりで全身を拘束されている以上、絞り出す事すら敵わず、その場に居る誰の耳にも届かない。  やがて誰かの手が私の身体に触れ、強引に上着を引き剥がしていく。 紗輝達が私に向かって何をしようとしているのか、狂乱する思考のまま考えた所で無駄な事。 確実に殺されてしまうのだ。何をされたって関係なんか無い。 両親に対する謝罪の言葉も辞世の言葉も語る事すら出来ない。 躍り狂う死の赤文字が視界を埋め尽くし、左目から血の涙を流しながら私は全てを諦めた。  自身が死んでいく様を冷徹に見据える中、突如として私の右腕が激しく振動を始める。 倦怠感に飲まれた私には、自身の右腕が自らの意思に反して動き始めた事でさえ、どうでもいいと思っていた。 「うわっ! 何だ!?」  異常な動きを見せた右腕に続き私の身体も力強く脈動し、両足と上体を押さえ込む背の高い男子と軽薄そうな男子、そして紗輝の三人を、紙細工の様に軽々と弾き飛ばした。  突然の事態に、周りに居た誰しもが私と弾かれた三人に視線を動かす。彼等が離れた事で拘束を解かれ、自由を取り戻した私の右腕も振動を続けながら前面へと伸び、地面に敷かれた表の上に平手を着く。 「右手が表の上に……?」  色覚が薄れてぼやける視界と、次第に遠退く聴覚の世界で、紗輝の周りに立っていた二人の男女が驚きの声を漏らす。 吹き飛ばされ、雑木の一つに背中を打ち付けた紗輝の表情も唖然とした物に変わっていった。 「デッド、ロック……」  不意に誰かが鮮明な声でそう呟き、私も色も光も消えて行く視界の中、目の前にある表を凝視する。 土で汚れ、擦り傷の出来た右手……その人差し指が真っ直ぐに伸び、デッドロックの英単語を指し示していた。 「な、何が起きてるんだ……」  理解出来ない異常な事態に恐怖心を覚え、地面の上に尻餅を着いていた背中の高い男子が戦慄する中、私の身体は意思に反して動き続けた。 上体を起こし力無く頚を垂れ下げたまま、“私の身体を突き動かす者”は、周りにいる男女の顔を一つ一つ覗いていく。 「天子、賜る、贄、潰せし、愚者、罰す」  赤以外の色覚も無く、私の視界の中にぼんやりと浮かぶ六つの人影。恐怖、愕然、戦慄、唖然、驚愕、恐慌。  
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