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  その一人一人が見せる表情を鮮明に記憶し、何者かの声が私の耳にこびり着いた。 「ふざけるな!!」  身体の制御も自らの意思で出来なくなった私へ激昂し、紗輝は駆け出して表の上に敷かれた私の右手を踏み付けようとする。 思わぬ反撃を受けた事に因る恐怖を押し隠し、怒りに変えて歯向かう彼の攻撃も何の意味を為さなかった。 「がっ!?」  私の甲を踏み付けるべく繰り出された紗輝の左足は、理解出来ない謎の力に因って阻まれ、彼の爪先は捩じ曲がって後方転回をする様にその場で宙を舞い、赤茶けた土の上へその身を叩き付ける。  紗輝以外の者達も唯その場に立ち尽くし、茫然とした表情を私と彼へ向ける事しか出来なかった。 その中で紗輝の攻撃を跳ね返し、小刻みに振動を続ける私の右手にも変化が起きる。 デッドロックと書かれた字を裂き、人差し指の皮を破って毛細血管を大きく切り開く。 指先から滲み出る血液を右一直線に走らせ、私の人差し指は右端に書かれた別の英単語を指し示した。 「デッドエンド──」  埋め尽くされていた赤色も消えて、色覚を失いつつある私の視界に映る、掠れたデッドロックの字と漆黒の血で結ばれたデッドエンドの字。 私を突き動かす者の真意を悟ったのか、遠くから誰かの震える声が耳に届く。 私の身体を動かす何者かもその声に反応し、頭を上げ頚を回して発言した人物の顔を覗き見た。 「うあ……!?」  遂に私の色覚も完全に消え失せて、視線の先に映る白濁した人影をじっと見据える。 ぼやけているがその人物の正体は理解出来た。 金髪の軽薄そうな男子学生。 何者かに動かされる私の姿に怯え、その場で尻餅を着いて歯を鳴らしながら、頻りに首を振っている。 「やばい……やばい! クルゥストゥス様の都市伝説は本当だったんだ……!!」  半狂乱になる彼を二人掛かりで抱き起こし、二人の白い人影は私の前から慎重に後退りを始めた。 影の形状からして、黒髪の女子学生と短髪の女子学生だろうか。 「待て! 待ってくれ! 米澤! 河野! 絢香!」  次に叫び声を発したのは忌々しいあの男。 あれだけ私を嬲り(なぶり)ながら何者かに追い詰められ、性懲りも無く救いを求めようとしている。 赦せない。私に憑り依いた者の力を借り形勢を逆転した為か、憎しみの念が私の胸中に沸々と沸き上がってきた。 次の目標を見定めた様に、私の首を背後で蹲る彼に向ける。  
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