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  左右の口角が大きく吊り上がり瞼も限界まで開かれて、私の両眼は白濁する彼の影を凝視する。 「ああああああっ!!」  私の身体を利用して謎の存在は顔を歪めさせ醜い嘲笑の声を発する。 その後に続く紗輝の絶叫も、何者かに身体を乗っ取られた私の耳には、唯の遠雷の様に聴こえていた。  私の両足を拘束していたロープも彼の悲鳴に掻き消されたのか、音も無く千切れ、ばらばらになって周りに散っていく。 「さ、紗輝……」  謎の存在に怯える紗輝を周りにいる二人の男子生徒も救おうとはしない。 恐らく彼等も、得体の知れない恐怖からその場に立ち尽くし、蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取れずにいるのだろう。 手を出せば自身に災難が降り掛かる。そう思えば、彼等が手を出さない理由も分かる。  私の目前に広がる白色だけの世界で、救い主も現れず恐怖にのたくる紗輝の姿を見据え、顔を歪めて嘲笑い。 左目から夥しい(おびただしい)量の血液を流して立ち上がり、私を動かす何かはゆっくりと彼の前に足を進めた。 「か、加納さん! 早く逃げて!」  私を生け贄として神様とやらを呼び出した結果、収拾が着かなくなり全ての元凶達は皆、錯乱し、それぞれ危険から脱するべく思い思いの行動に出る。 後ろから景山君の物と思われる叫び声が響く中。  私は力無く、自身を操る何者かに身を委ねて、事の顛末を傍観する事と決め込んだ。 紗輝が呪い殺されようと、私の周りにいる者達がどうなろうと、全てどうでもいい。 「や、やめろ、やめろおおおおっ!!」  恐怖と格闘して喉の奥から声を搾り出し、最大限の音量で絶望の断末魔を響かせる紗輝の人影も、白い世界の中に溶け込んでいく。  もう何も見えない。何も聴こえない。 でもそれで良い。やっと楽になれる。 私を痛め付ける者も、この世界には……もう誰も居ないから。  白く塗り潰された世界の中で私は唯、呆然と目前に広がる何も無い景色を眺め、安堵した様に軽く息を漏らした。 「今から後、恐慌、賜る、贄、器、在、有、と判断、せり」  身体の自由はまだ戻らず、自らの意思で指先一つ動かせない状態の中、抑揚の無い老人の声だけが聴こえ、再び白の世界に消えていく。  
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