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   あれから何れだけの時間が経ったのだろう。 時間の経過でさえ全く分からない白い世界に、黒い闇が垂れ籠めてきた。 漸く私は、自身が元の世界へと帰還を果たした事を自覚して、身体に力を入れる。 すると、今まで指先一つ動かなかった筈の両手も、私の意志に従って動かす事が出来る様になり、身体の自由を取り戻した私は安堵の気持ちから、軽く溜め息を吐いた。 「ふう……」  色覚も復調し、回復した私の視界が赤茶けた地面と暗闇の中に映える無数の雑木を映し出す。 白い世界に閉じ込められている間。私は赤茶けた地面の上で、うつ伏せに倒れていた様だ。 理由を考えようにも、混乱していて思考も纏まらない。 「最悪……」  泥臭い臭気が鼻を突く。上体を起こし外の景色を一望した後、私は自身の身体へ視線を落とす。 着用していた制服のブラウスやスカートも土で汚れ、私の両手にも擦り傷の痕が残っている。 何故、自分が雑木林の中に居るのか、地面の上で体を横たえていたのか。 それもはっきりと思い出せないまま立ち上がり、私は雑木林から出る事にした。 「……何で、こんな所に居るんだろう」  記憶違いかもしれないが、白の世界に閉じ込められる直前。私は他の誰かと一緒に雑木林の中に居た様な気がする。 そこで何が起きたのか迄は思い出せない。先程まで閉じ込められていたあの白い世界も、私が見ていた単なる夢という気がしてきた。  足場の悪い道を慎重に歩きながら、私は痒みを覚えて無意識の内に左頬を手の甲で擦る。 「血?」  左手の甲を覗き、私は脱力し茫洋(ぼうよう)とした表情のまま、その場に立ち止まった。 手の甲に赤黒い血の痕が付着している。 何処かで怪我でもしたのだろうか。顔に謎の痒みが走り動揺しながら、私は独り疑問の声を発する。 「どうして……?」  早急に鏡を見て、自身の状態を確認したい。 両手や膝にも擦り傷の痕が残っている。雑木林の中で何か怪我をする様な真似でもしたのだろうか。 そう思いながら、私は再び歩を進める。 左の頬を擦る度に、着いていた血痕もぼろぼろと崩れ落ちていった。 怪我をしてから大分、時間も経っているのだろう。 日も既に暮れて、空には無数の星が輝いている。  時間も確認したいが、所有物は着用している制服とローファー以外には何も無い。 恐らく家族も全員家に帰り、私の帰りを待っているに違いないだろう。  
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