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  何と両親に謝ればいいのか言い訳を考えている内に、私は雑木林を抜けて、道路沿いに出た。   「ここは……」  外灯は少なく、車の通りも多くはない。 向かいに見えるガードレールの下には川が流れ、奥には小さな鉄橋が架かっていた。一応ながらこの場所に見覚えがあった。 私の中学校から裏手、北西の方角へ少し進んだ所に野山と傾斜の緩い山道がある。 恐らく私が居た場所もその一帯かもしれない。  此処からなら、徒歩でも自宅に帰れる筈だ。 少しの希望を抱き、私は奥に見える鉄橋の方向へと歩いて向かう。  確か今の季節は春、五月の初め。ゴールデンウィークを過ぎて間もない。 そんな日に限って、何故私がこんな目に遭っているのか満足に働かない思考を巡らせる中、私は辺りを包む冷気に身を震わせた。 「何で、上着も着ずにこんな所にいたんだろう……」  春先とは言え、夜中の山道は自宅近辺と比べて大分冷え込んでいる。 その中で私は制服である長袖のブラウス一枚と、丈が自身の膝辺りまであるスカートを着用した状態のまま、ずっとあの雑木林にいた様だ。薄着のせいで身体も冷えて体調も優れない。 「早く帰ろう。このままじゃ、風邪を引いちゃう」  自身の身に降り掛かった災難に付いて考える事を止め、私は歩幅を広めて鉄橋の方向へと急ぐ。 其所を渡り終えれば、自宅への帰路も掴む事が出来る。 家に帰りたい一心で足を進めながら、私は鉄橋の向こうに見える街の灯りに視線を送った。 「眷属、贄、招く、供物、天子、賜る、為」 「え……っ?」  鉄橋の前に差し掛かり、夜景を覗いて帰宅へのルートを計算する中。ローファーの靴音に紛れて、側面に見える外壁の方から抑揚の無い低音が此方の耳に届いた。 それに驚いて私は後ろを振り向き、視線を山道の方へ向ける。  其所には誰もいない。人間に似た声を発する様な物さえ何一つ存在していない。 野山に向かって吹き荒ぶ風の音を老人の声と聴き違えたのか。 そう解釈し自らの目的を思い直し、私は鉄橋の方へ踵を返して帰路に就く。  先程私の耳に届いた謎の音も、白の世界に閉じ込められる時に聴いた老人の声とよく似ている気がした。 あの声が何だったのかは、結局分からず仕舞いだ。 恐らくはそれも幻聴みたいな物としか思えない。考えた所で無駄な事だろう。 「……何でも良いか、早く家に帰ってお風呂に入ろう。泥臭い格好のままじっとしていたくない」  
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