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それから何事も起こらないまま鉄橋を渡り終え、もう一度だけ後ろを振り向いてみたが、やはり向こう側には何も無い。
明滅する電灯と錆び付いたガードレール、そしてコンクリートの外壁が見えるだけだった。
それから私は思考を止め、唯ひたすらに自宅へ向かって突き進む。
鉄橋を越え感覚にして十五分位歩き、中学校の前を横切って何時もの通学路を通り、漸く私は自宅の前に到着した。
その間に擦れ違ったのは道路を走る自動車位で、他には誰の姿も見ていない。
こんな土に汚れた格好で街中を歩いている所を誰かに見られれば、確実に怪しまれるだろうな。
……等と考えて、私はリビングの灯りを遠目に覗く。
やはり家族は皆、帰ってきている様だ。
「真弥! こんな時間まで何処に行っていたの!?」
インターホンを鳴らし、家の鍵を開けてくれた母親と対面して、私は力無く目を伏せた。
体調を崩した今の状態では、言い訳の言葉も全く考えられない。
「ごめんなさい……お母さん」
私の口から出るのは、ごめんなさいの言葉だけだ。
訳も理由も理解出来ないまま家を離れ、何故か雑木林の中で倒れていた事について話す事は出来ない。
事実を話した所で余計な混乱を招くだけだろう。
「それに真弥、その格好は何!? 貴女、怪我しているじゃない!」
「……うん、分かってる」
声高に捲し立てる母を押し退けて玄関に入り、私は靴を脱いでそのまま浴室の方へ向かう。
リビングの前を通り、心配そうに此方へ声を掛ける父へ、少しシャワーを浴びたいと話し、私は洗面所に身を滑り込ませ、そのまま扉を閉めた。
「何で、こんな……」
理由も無く両目に涙を浮かべて、私は洗面所の鏡を覗き自身の姿を確認した。
帰宅中は全く気にも止めていなかったが、白いブラウスは赤茶けた土で汚れ、背中や袖に靴跡の様な物も見える。
スカートや履いていた白い靴下も同様だ。前面は赤茶けた土で汚れ、両親が心配するのも分かる位に酷い有り様だった。
「う、うっ……」
訳も分からず無性に哀しい気持ちに飲み込まれ、溢れ出る涙を指で拭いながら、私は鏡に近付き汚れた自身の顔を覗き込む。
左の瞼。その下に何か出血した痕跡の様な物が見えた。
出血量も微々たる物に感じられず、下の瞼全体から左の頬に向かって血筋が垂れ下がり、ブラウスの襟元に血痕が付着している。
帰宅中に何度か頬を擦り、乾いた血も剥がれ落ちていた筈なのだが……
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