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   遅い夕食の後。私は母と二人切りとなり、身体中に負った打撲傷の手当てを受ける。 誰かから暴行を受けたのでは無いかと、心配する母へ私は何もされていないと答える事しか出来なかった。  善く善く考えてもみれば、あの雑木林の中で全身を打ち付ける理由等あろう筈も無い。 それに母は背中や腰に受けた打撲傷を、人為的な物に因る痕跡であると見抜いていた。 ──詰まる所、母の言う通り私は何処かで誰かから暴行を受けた事になるのだろう。  それなら何故。それを一つも思い出す事が出来ないのか。 誰が私を傷付けたのか。 追究を行う事で襲い掛かって来る偏頭痛に堪えながら、思椎を重ねてみる。 「……あっ」  ほんの一瞬だけ、六人の影が私の脳裏を過る。 皆一様に気味が悪く汚ならしい笑みを浮かべ、私の顔を覗いていた。 但し、六つある影の内の一つ……白い襟巻きを首に巻く影だけ、その表情を窺い知る事が出来ない。 首から上は墨で塗り潰したかの様に真っ黒に染まり、その影は得体の知れない気配を全身に纏って、射殺す様な殺気を私に向けて放っていた。 「ごめん、真弥。痛かった?」  背中に走る痛みと母の言葉を訊いて我に返り、私は無言のまま首を振って問題は無いと伝える。 それから母と会話を交わす事も無く怪我の手当ても終わり、時間も午後十時半を回っていた。  救急箱を仕舞う母と就寝前の挨拶を交わして、私は紺色の上着を羽織り自室に戻ろうと二階の階段を上がる。 「……大丈夫だ。真弥をお前の所には行かせないから」  二階の廊下に足を踏み入れた際に父の声が耳に入って、私の自室とは反対側にある両親の寝室を横目で覗き、訝し気に首を捻る。 寝言だろうか。 父にも余計な心配を掛けさせてしまった事を、申し訳なく思いながら私は自室の扉を開ける。  私が居ない間に母が片付けてくれたのか。鞄も学習机の取っ手に掛けられており、ベッドの上に投げ放っていた私の携帯電話も、机の上にある充電台に移動されていた。  ベッドの中に潜り込む前に、私は何も考えないまま自身の携帯電話を手に取って着信履歴を覗いてみる。 「誰……?」  履歴を埋め尽くす同一の電話番号。 それを確認して背筋に寒気が走るのを感じ、ベッドの上に座り込み、私は携帯電話のディスプレイを凝視する。  帰宅して間もない時間帯に十回以上も、同一の電話番号から着信が入っていた。  
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