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  電話帳にも登録されていない番号である為、私の携帯電話へ連絡を入れた相手の正体は掴めない。 何度も繰り返し着信を入れてきた相手へ、電話してみようとも思ったが……夜も遅く、全身を包み込む眠気から考えも纏まらず、連絡する必要性は無いと判断し携帯電話を充電台に戻して部屋の照明を消し、そのままベッドの中に潜り込む。 「今日は、おかしな事ばかり起こったな……」  夕方から訳の分からない出来事が立て続けに起こり、私の気もすっかり滅入ってしまっていた。 今日の事はもう忘れてしまおう。 雑木林にいた事も、怪我の事も。 六人をこの手で始末した事も。 「贄、潰滅、せし、愚者、罰す、後、贄、供物、恐慌、賜る」  心に湧く奇妙な感情も誰かの囁く声も、強い睡魔に呑まれた私にとって何かの夢物語に感じられた。 眠気は高揚感に変わり、直ぐに私は眠りに落ちる。  その間。幻となった六人の影に係わる何かの夢を見ていたが、目を覚ますのと同時にその内容も記憶の中から消え失せていった。 カーテンの隙間から朝日の陽射しが差し込み、私は起き抜けの表情のままゆっくりと上体を起こして、学習机の後ろに掛けられた壁掛け時計を覗く。  時刻は午前七時十分。ベッドから出て、予備としてもう一着だけある制服のブラウスとスカートを、クロゼットから取り出して着替えを済ませる。 上着は昨日から紛失しており、其方だけは替えが無く、ブラウスの上から紺色のベストを着用する事で防寒への対策も完了させた。  昨日、何処で上着を無くしたのか、探しておかなければならない。 上着を無くした場所に思い当たる節もある。 自宅に無いのなら……恐らくはあの雑木林の中だ。出来ればあんな場所にはもう二度と行きたくはないが、学校での問題を避ける為だから仕方がない。 「真弥、朝御飯ー」  赤地のリボンタイを結び当面の目的を固めた所で、一階から母の呼ぶ声が耳に届く。 起床した旨を短く伝え、学習机に掛けられた鞄を背負い、私は自室を出てリビングに向かった。  両親と共に朝食のエッグトーストとコーンスープを食べ、昨日の出来事について母から簡単な質問を受けているが、私は変わらず夜遅くまで出歩いたりしないと答える事しか出来なかった。  食事も直ぐに終わり歯磨きや洗顔等の身支度を済ませ、仕事の為、外出の準備に取り掛かる両親へ挨拶を交わすと、私は鞄を片手に家を出る。  
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