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   私が一体何をしたと言うのか。泣きじゃくり、家族にも打ち明ける気にもなれず、頼れる者は誰もいない。 独りで悩み抜いて結局は何もかも全て忘れてしまおうと考える事で、幼なじみとの関係にピリオドを打った。  立ち話に華を咲かせた生徒達でごった返す中、私は鞄を背負い教室を出て、帰宅後の予定に付いて考えを巡らせる。 共働きで忙しい両親に代わり、洗濯物の取り込みや食器洗い、玄関先の掃除等を片付ける必要がある。 それに高校受験を控えた歳にもなったし、それに備えて勉強も始めよう。 参考書等も一通り、父が揃えてくれた。 「クルゥストゥス様の祟り……って知ってる?」  階段の踊り場に群れ集まる女子生徒達の話を訊き、私は思わず足を止め、彼女等の話に耳を傾けてしまった。 身の毛も弥立つ様な噂話を嬉々として話す女子生徒達へ抵抗感を覚えながら、私は一人……階段の前に立ち止まって喉を鳴らす。 「──喚び出したクルゥストゥス様を御還しせずに放っておくと、憑り依いた生け贄と無礼を働いた召喚者へ、厳しい罰を与えるらしいよ。何でもクルゥストゥス様は位の高い神様みたいで、御怒りに触れた者は皆、死んでしまうんだって」 「まさか。本当に神様が現れる訳無いじゃん。そんなの唯の自己暗示だよ」  昼休みに教室で訊いたクルゥストゥス様の噂話が再び脳裏を過る。 ある者の未来や秘め事等を暴き出すとされる神霊……クルゥストゥスを喚び出す為には、一人、生け贄になる人物が必要とされる。 生け贄に捧げられた人物を媒介に、クルゥストゥスは占いを実行し、その場に居る者達へ情報を提供する。 但し……生け贄にされた人物が、その後どうなるか。様々な噂が飛び交っていた。 そのまま、何事も起きる事無く、生け贄は無事に解放される……と言う楽観的な回答もあれば、クルゥストゥスに憑かれ、そのまま取り殺される。 クルゥストゥスが去った後、その代償として精神を破壊され廃人と化す……等、非情な回答も耳にしていた。 他に、とても口で言い表せない程に残酷で凄惨な回答もあり、その噂話だけで私は強い恐怖心を覚えている。 「だよね。クルゥストゥス様の占いで、本当に人が死んじゃってたら、今頃大騒ぎだもんね」 「そうそう。実際にそんな事も起きていないのに、何でそんなデマが飛び交っちゃうんだか」  思わず私は耳を塞ぎ、噂話を続ける女子生徒達の前を足早に通り抜けていく。  
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