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登校中も普段と変わらず、仲良く談笑し合う生徒達の列に紛れて進み、私は何処で上着を無くしたのか思考を巡らせる。
昨日と違って偏頭痛も起こらず私の頭も冴えて、事態の推理も容易に行う事が出来た。
私が雑木林の中に居たのも何か理由がある筈。
……だが、幾ら考えても其処へ行く必要のある事など、何一つとして分からない。
そもそも雑木林の中に脚を運ぶ事情なんてあるのか。
自発的に行く様な場所でも無いのに……
「あ……っ」
赤茶けた土の上に広がる表の様な物と、赤黒い線で結ばれたデッドロックとデッドエンドの英単語。
それが甦ってきた偏頭痛と共に私の脳裏を過る。
記憶の中に秘められた情報。それが掴めそうなのに、襲い来る頭痛と動悸が障害となって、それ以上の情報を拾い上げる事が出来なかった。
思い出してはいけない。潜在意識の様な物が頻りに私の心へ訴え掛けてくる。
「鳥飼さん、大丈夫ですか……?」
「ひっ!?」
背後から声を掛けられて私はその場に立ち竦み、恐る恐る首を後ろに回す。
申し訳なさそうに目を伏せた男子生徒の姿が視界に入り、私の額から冷や汗が滲み出た。
私より僅かに背が低く、制服を着用していなければ
、小学生の様にも見えるその男子の前で、私は表情を凍り付かせる。
自身に危害を加えて来ない相手に、此処まで怯える理由も分からない。そもそも彼とは面識が無い筈なのだ。
それなのに私の足は震え、目には大粒の涙が浮かぶ。
強い怖気(おぞけ)を感じ、身震いする私と、此方の様子を窺い何やら動揺した様に視線を泳がせる男子生徒。
周りを歩く登校中の生徒も、可笑しな物を見るかの様な視線を私や相手に向けて、次々に通り抜けていく。
「あの、済みません。昨日の事、まだ気持ちの整理も付いていないんですよね」
表情を凍り付かせる私へ深く頭を下げ、男子生徒は謝罪の言葉を口にする。
怖れの感情から身構えたまま、私は男子生徒の様子を注意深く見つめていた。
「加納さんに連れられて、降霊術の実験に鳥飼さんを利用して、本当にごめんなさい」
彼から加納という名字を訊き、私の頬を一筋の汗が伝う。
青褪めた(あおざめた)表情を浮かべて、目の前にいる男子生徒の顔を凝視し、私は恐る恐る口を開く。
「どういう事……?」
昨日の出来事。私の記憶から抜け落ちた情報を、その男子生徒は知っている。
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