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  彼の様子からそれについて確信を掴んだ私は、恐怖や頭痛と格闘しながら彼の言葉へ耳を傾ける。  思い出したくない情報を、無理に追究する理由もよく分からない。 唯、自分の身に起きた事へ、何も知らないままでいたくない。 少しでも心に残るこの不安感を拭い去りたい。 その一心から、私は両目の涙を拭って相手の顔をじっと見つめている。 「昨日、僕を含めた六人で鳥飼さんを裏山の雑木林まで連れ込み、都市伝説の検証を行った事です。あの後、訳が分からなくなって、鳥飼さんを置いて皆で逃げ出したんですが……」  私が雑木林の中に居た理由。それを目の前にいる男子生徒から訊かされて、私の頭も真っ白になる。 彼が語る都市伝説……降霊術の事も、全く思い出せない。 男子生徒を含めた六人が、私を雑木林の中に連れ込んだ際の記憶は無く、彼の話も虚構の物……詰まりは作り話なのではないかと疑いつつも、私は男子生徒の話を無言のまま訊き続けた。 「逃げ帰った後で、他の皆さんと加納さんは無事でいるのかどうか話し合い、一緒に連絡を取ってみたんですが、昨日からずっと電話も通じなくて……」  男子生徒の表情も私に声を掛けた時からずっと変わらず、重苦しく強い不安感から押し潰されそうに見えた。 頻りに目配せを行い、私の様子を窺っている様にも映るが、一体何を気にしているのだろう。 黙って息を呑む私の前で、今一度彼は頭を下げる。 「──でも良かった。鳥飼さんの方は大丈夫そうですね」  大丈夫なのかどうかは自身も全く理解出来ていない。 気が付いた時には左目から謎の出血があり、全身は土で汚れ、打撲傷も負っていたのだ。 その怪我の原因も、彼なら知っているのかもしれないが、それを訊き出す勇気は無い。 核心部に迫る事になると、恐怖心に駈られてどうしても後込みしてしまう。  安堵する事も表情を弛める事もせずに、男子生徒は真剣な眼差しを私に向けて一つ、頼み事を持ち掛ける。 「……お願いです、鳥飼さん。今日の放課後、裏山の方まで一緒に加納さんを捜して戴けますか? 最後まで加納さんと一緒にいた鳥飼さんなら、彼の居場所も知っていると思うんです」  彼の頼み事を引き受けるかどうか。 私は何も言わず首を横に振り、彼の頼みを断った。 抜け落ちた記憶を思い出すのも大事だが、彼とは一緒に行動したくない。 本能的に危険を察知し、私は男子生徒から目を伏せた。  
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