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「……分かりました。無理を言ってごめんなさい」
最後にもう一度最敬礼を行い、男子生徒は私の脇を通って学校に向かっていく。
別れ際、頼み事の中で彼が言っていた言葉が心に引っ掛かり、私も後ろを振り向いて走り去る男子生徒の背中へ声を掛けた。
「……あの。最後まで加納とかいう人と、一緒に居たってどういう事? 貴方は何で、その人を置いて離れていったの?」
私の声も彼の耳には届いていないのか。此方の問い掛けへ応じる事無く、男子生徒の姿は校門の向こうに消えていく。
大人しく何メートルか先に見える校門の方を凝視したまま、私は彼の言葉を一つ一つ思い返していた。
都市伝説の検証の為、私を中学校の近くにある裏山、雑木林に連れ込んだ事。
昨日から行方が分からなくなっている加納という人物の事。
私が負った負傷の原因。男子生徒が残した大丈夫そうという言葉。
そして、私が加納という人物と最後まで一緒に居た事。
ばらばらではあるが、抜け落ちた記憶に関する大まかな情報を、男子生徒の言葉から知る事が出来た。
事の詳細までは分からず仕舞いだったが、これでも胸に残る不安も少しは解消されている。
「放課後、私も雑木林に行ってみよう。上着を探す序でに何かを思い出せたら良いけれど……」
放課後からの行動予定も決まった。
不安と目に浮かんだ涙を拭い、私も教室に向かって足を進める。
思い出したくない情報までは知らなくともいい。
最低限。両親にも昨日の出来事をちゃんと説明し、安心させられる程度の事までは理解しておきたい。
……そう考え、私は心を入れ換えて、今まで浮かべていた陰鬱な表情を掻き消した。
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