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  クルゥストゥスの呪いの事については考えず、あの雑木林の中で何が起きたのか、それを知る事へ唯ひたすらに意識を傾ける。 「ところで。水瀬の奴は何処に居るんだ。お前ら、ちゃんと連絡は入れているんだろう?」  景山と呼ばれた男子生徒への詰問を終えたのか、鉄橋の向こうへと移動して、背の高い男子生徒は前を向いたまま、後ろを歩く三人へと声を掛ける。 他にも雑木林に来ている人物がいるのだろうか。疑問を覚えて彼等に気付かれぬ様、足音を立てず物陰から鉄橋の近くへ移動し、私は会話を拾う事に専念し続けた。 「水瀬さんなら俺らが待ってる間、先にあの場所に行くって言ってましたよ」  軽薄そうな男子生徒が疑問に答えて、コンクリートの外壁に目配せをしながら後ろの二人と共に、彼の後を付いて歩く。 二人もその事を知っていたのか、別段驚いた様な表情さえ浮かべていない。 「でも、水瀬さんも凄い度胸してますよね。あんな所に一人で行くなんて」  軽薄そうな男子生徒の言葉に誰一人として返事を返さず、そのまま四人は山道の脇から雑木林の中へと入り込んでいく。 彼等から姿を隠しつつ慎重に近付き、私も相手の様子を遠目で眺めながら、雑木林の中へ足を運ぶ。  夜の暗闇に覆われていた昨日と比べて見通しも良く、谷の下で流れる川や、立ち入り禁止と書かれた規制線も雑木林の奥に見える。 私の先を進む四人の学生達も、規制線の手前に広がる場所に立ち並び、捜している人物の名前を呼ぶ。 一人は谷底へ視線を落とし、もう一人は規制線を潜って、その向こう側へと進んでいった。 「加納、紗輝……」  私も捜索される人物の名前を復唱し、強い頭痛を覚えてその場に蹲った。 彼の名前を、何処かで何度も訊いた様な記憶がある。 確か……昔から仲の良かった幼なじみが一人だけ居た気がする。 名前までは思い出せない。容姿も記憶の底から引き出そうとすれば、激しい偏頭痛が私に襲い掛かり思考を妨げてくる。 「お前、そんな所で何しているの?」  不意に背後から声を掛けられ、私は頭痛を堪えながら後ろへと振り返った。 雑木の一つに肘を着き、両目の吊り上がった黒髪の女子学生が冷たい眼差しを此方に向けている。 「あ、ああ……っ!」  彼等の仲間に見付かった。その事を認識するより先に、黒髪の女子学生から胸ぐらを掴まれ、私は目を見開き戦慄から言葉を失って、相手の顔を凝視した。  
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