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  「その様子じゃ、紗輝を痛め付けた変な術も使えない様ね」 「……さ、紗輝を痛め付けた、変な術?」  黒髪の女子学生の口から出た言葉に疑問を持ち、私は苦悶の表情を浮かべながら短く相手の言葉を復唱する。 彼女が何の事を話しているのか、記憶の無い自身には全く分からない。 加納紗輝という人物が失踪した原因が私にあると相手もそう考えているのか。此方の言葉に怒り、胸ぐらを両手で掴んだまま私の身体を振り回し、後ろに立つ雑木に向かって私の背中を叩き付けた。 「惚けないで。お前が紗輝を、何処かへ連れ去ったんでしょ!」 「い、嫌! やめて……っ!」  背中に走る痛みからか、六人の男女の影が視界の片隅に浮かんでは消えていく。 思い出したくない記憶が甦ったのだろうか、六人の影達は無抵抗の私へ一方的に暴行を加え、恐怖し怯え泣き喚く様を嬉々とした表情で眺めていた。 「何処よ! 何処へ紗輝を連れていった!」  相手に顔を打たれ、六人の影は消えてなくなり、私は我に返った。 左手で私の頬を何度も叩き、黒髪の女子学生が憎悪に彩られた感情を此方にぶつけてくる。 加納紗輝の居場所を、私が知っている物と思い込んでいるのか。同じ様な言葉を何度も何度も繰り返し叫びながら、私に暴行を加え続けた。 「ちょっと、水瀬さん! 何してんですか!」  やがて向こう側に居た学生達の一部も、私の存在と狂乱する女子学生の姿に気付き、此方へと駆け寄って私と彼女を引き離した。 怒りに震える女子学生の前で、私は背中を雑木に張り付けたまま膝を折り、その場に崩れ去る。 「でも何で、この子が此処にいるのよ?」 「大方、俺らの後を着いて来たんじゃない?」 「まさか、クルゥストゥス様が連れて来た……とか?」 「止めろよ。まじでそうだったら洒落にならねえって」  水畑と呼んだ黒髪の女子学生を引き止めていた金髪の男子学生と短髪の女子学生も、不思議そうに此方を見下ろしてくる。 けれども、その場に蹲って苦しむ私の事など、別段気にも掛けず、彼等は直ぐに視線を逸らし、水畑に加納紗輝の情報を聞き出していた。 「やだ……痛い、痛いよ……」  他の学生達が彼女を止めてくれなければ、私がどうなっていたかも分からない。 顔を伏せ、理性を失って子供の様に泣き崩れる私を置き、他の学生達はその場を離れた。 過剰に怯え、会話も出来ない今の私から、加納紗輝に関する情報を引き出せないと理解している様だ。  
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