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  痛みに苦しむ私の事など完全に無視して、学生達は再び加納紗輝の捜索に戻った。 クルゥストゥスとやらが憑依する相手とは一緒に行動したくないと、彼女らは考えているのだろう。 「私、何もしていないのに。どうして痛め付けてくるの……」  大粒の涙を流しながら立ち上がり、私は頭を抱えて嗚咽の声を漏らす。 間違い無く彼女等は、白い世界に閉じ込められる前の出来事を知っている。 しかし、それを聞き出そうとすれば、今より確実に酷い目に遭わされるかもしれない。 ……そう考えると、足は震えて身も心も凍結していく様な感覚を覚える。 「あ……」  悪魔の様な殺気を放つ彼女等から背を向けようと後ろを振り返り、私は視線を河原に向けた。 砂利道を挟み、流れる幅の小さく浅い川の向こう側、一本の雑木の前に見慣れた上着が落ちている。 左胸のポケットに着いた校章、見紛う(みまがう)事もない。私の制服、昨日からずっと無くしていた上着だ。 「よ、良かった……」  乱暴な女子学生に出会し散々な目に遭ったが、目的の一つである自身の上着は見付かった。 後は、昨日の出来事についてだが……それはもう知らなくてもいい。 変に首を突っ込めば、また暴行を受ける羽目になる。 「早く帰ろう……もうこんな場所に居たくない」  泣きべそを掻いたまま河原を越え、雑木の近くに落ちている上着を拾い、私は背を屈めて上着を鞄の中に仕舞う。 他の学生達は此処から何メートルか離れた規制線のある丘の上に居る。在らぬ疑いを掛けられる前に早く退散するべきだ。 「鳥飼、真弥──」  この場から離れる事だけを考え、ファスナーを上げ鞄を閉めた私の耳に異質な声が響く。 人間の物とは思えない低音。心に染み入る不快感と無気味さから、私は恐る恐る雑木の正面、向こう側にある岩石で盛り上がった丘の上を見上げた。  其処から此方を見下ろす、白い襟巻きを首に掛けた顔の無い少年。 それが私の視界に映り、私は目を見開いて恐怖に身を震わせる。  顔が無い。少年の首から上は墨に塗り潰された様に真っ黒に染まり、口も目も影に飲まれて全く認識出来ない。 それなのに、少年が怨恨の眼で私の顔を凝視している事だけは分かる。 「ひっ! い……いやああっ!!」  彼が生きている筈は無い。確かにあの時、彼は…… 遠因となった私の存在に気付き、顔の見えない少年は怨みの念を持って私の前に現れた。  
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