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  彼の言葉を一つ一つ思い出して、私の呼吸も荒くなり目を見開き、その場にしゃがみ込み、恐怖から目を背けるべく頭を下げ着信が途切れるまで、声を殺して待ち侘びる。 「やだ、嫌だ……」  相手の電話へ出る事も無く、私は恐る恐るベッドに近付いて携帯電話に手を伸ばし、ただ茫然と着信を知らせる待受画面を見つめていた。 それから一分も経たない内に、再び彼から着信が入る。 「ひ……っ!?」  彼も諦めていないらしく、不意を突かれた事に驚き、私は再び恐怖を呼び起こして、画面に映る見慣れた電話番号から目を伏せた。 私が幾ら無視を続けても、着信は何度と無く入り続ける。 一定の時間が経ち、着信が途切れても、彼は直ぐにまた掛け直してきた。何度も何度もしつこく電話が鳴り響き、私は目に涙を浮かべて恐怖と戦い続ける事となった。  十回以上も同じ着信メロディを聴き続け、終わりの見えない堂々巡りも嫌になり私の心は折れて、仕方無くその電話へ出る事にした。 電源を切るなり着信拒否にするなり、他に出来る事もあったのだが、それも全く思い付かない状態にまで私の精神は追い込まれている。 「真弥……」  聞き慣れた男子生徒の声。名前を呼び、電話に出た相手が私であるかどうかを確認し、男子生徒は先程より声量を落として、私に話し掛けてきた。 「ごめん、真弥。いきなり電話を掛けたりして。後もう一回コールして、それでも出なかったら、もう諦めようと思っていたけれど……良かった。ちゃんと電話に出てくれた」  あの時が来る迄。何度も聴いた彼の声も、何時もと様子が違っていた。 声量もか細い物となり、何処か陰鬱そうに私の顔色を窺っている様にも感じられる。 「今、真弥の家の前で待っているんだ。出てきて話をしてくれないか」  何時に無く沈痛そうな声質で、彼は私に頼み事をする。 帰宅中、誰とも擦れ違っていないのに……何故、彼が私の家の前に居るのか。 話があるなら、何故、帰宅中の私に声を掛けなかったのか。 そういった疑問も頭を過ったが、続く彼の言葉がそれらを打ち消していった。 「俺は君に謝りたいと思って電話を掛け、君の家の前に来た。お願いだ……話をして欲しい」  携帯電話から聴こえる彼の声も、今にも泣きそうな物に変わって、私も涙を目に浮かべたまま窓際に近付いて、恐る恐る部屋のカーテンを開け、そっと外の景色に視線を送る。  
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