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   私の家の前に立ち、制服の上から白いマフラーを羽織る茶髪の男子生徒が赤い携帯電話を片手に、私の部屋をじっと見上げていた。 「真弥……!」  カーテンの隙間から下を覗く私の姿に彼も気付き、表情を綻ばせて携帯電話越しに私の名前を叫ぶ。 彼の声に身を震わせながらカーテンを閉め、私は携帯電話のマイクをそっと口に近付けて、ゆっくりと窓から離れた。 「謝りたいと言うのは、本当なの?」  彼の行動から感じた率直な疑問を言葉に変えて、私は彼の意志が本当の物かどうか問い質すべく、相手の前で初めて口を開く。 電話の向こう側……家の外で少し戸惑う様子を覗かせ、彼は少し間を開けて自身の意志について、小さな声量のまま滞りなく淡々と説明を始めた。 「──本当だよ。真弥の考えや意志を理解しようとしないまま、俺は真弥に酷い事を言ってしまったと思っている。本当は直ぐに謝るべきだと思ったけれど、真弥はきっと赦してくれないと考えていた。ほとぼりも冷めてきた今なら、俺も真弥に謝る事が出来るし、真弥も俺の話を訊いてくれると信じていた。だからお願いだ、家の外で待っているから……直接、真弥と顔を合わせて話がしたい」  長い言葉に耳を澄ませ、私は一声も発する事無く、彼の態度に注意を向けた。 何時もと比較して彼も大人しくなり、此方へ謝罪しようとする意志をきちんと示している。 だが信用して、大丈夫か。 心に残る一抹の不安から、最後の一歩が踏み出せずにいる私へ、彼は懇願する様にひたすら謝罪の言葉を口にする。 そして、どうか一緒に話をさせて欲しいと私へ嘆願の言葉を送ってきた。 「……分かった。少しだけ待っていて」  私と顔を合わせる事を切に願う彼へ、短い返事で答えると私は携帯電話の電源ボタンを押し、ベッドの上にそれを置いて自身の部屋を出た。 玄関の前に立ち、私は一度を目を閉じて彼との思い出に触れる。  泣き虫で虐められていた私を彼が守ってくれた幼少期の事。 彼と共に喜びを分かち合った中学二年から三年までの半年間。 そして突然、私を「裏切り者」と罵り、絶交を言い渡したあの時の記憶。  電話で訊く彼の言葉も、深く自身の行いを悔いて反省し、私へ謝罪する意志があると感じさせるのに充分であった。 復縁は無理だとしても、心の荷は下りる。 少し安堵の気持ちを抱き、私は玄関の扉に手を掛ける。 きちんと反省しているのなら私も彼を赦すと、そう考えて。  
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