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「真弥……!」
玄関の扉を開けて相手の顔を覗き込む私へ、彼は嬉しそうに微笑みを浮かべて門の前へ近付いていく。
自身の嘆願を聞き届けてくれたと思っているのか、彼は私に頭を下げ今一度、謝罪の言葉を述べた。
「本当にごめん、真弥。君を裏切り者だなんて言ってしまった事。どうか赦して欲しい」
嬉しそうな微笑みから一転し、悲し気な表情を作ると彼は深々と頭を下げて、自らの過ちを謝罪する。
周りには誰も居ない。玄関から顔を出し、周囲を一通り見回してから、私は謝罪する彼へ赦免(しゃめん)の言葉を口にした。
「有り難う、真弥……」
私の言葉に泣き笑い彼は頬を赤らめて心から喜びの表情を作り、此方へ感謝の意を表する。
彼の笑顔に私も気を赦し薄らと微笑み返して、玄関から外に出た。
「……また友達に、なってくれるかな」
彼もはにかんだ笑顔を見せて照れ隠しに、右手を伸ばし握手をする様に此方へと促す。
その言葉を訊き私も彼の意思を信頼して、その願いを受け入れ、それに答えるべく行動に出る。
玄関の扉を閉め庭先の門を開けると、私も相手と同じ様に微笑みを見せて、彼の前へ歩み寄った。
今にも泣きそうに見えた彼の表情と謝罪の言葉。
それらを信じ差し出された手を見つめ、握手を交わそうと身を乗り出した私の腹部に鈍い衝撃が伝わる。
「え……っ」
鈍痛が私の全身を駆け巡り、何が起きたのか理解出来ぬまま、私は唖然とした表情を浮かべて彼の顔を見上げた。
私の瞳を見つめ返し冷たい嘲笑の表情を向けて、彼は門の前で蹲る私に悪辣な言葉を浴びせ掛ける。
「裏切り者のお前に、俺が謝ると思っていたのか。馬鹿が」
きつく両目を閉じ腹部を抱えて、ずきずきとした痛みに耐える私の襟首を掴んで無理矢理立ち上がらせ、彼は左手の拳を握り締めて私の腹部へ再びそれを押し込んだ。
重く小さな衝撃音と共に私の視界は明滅し、喉の奥に潜む流動物が迫り上がる感覚を覚えながら、私はえづき声を発して首を垂れる。
「何で、こんな……」
辛うじて私の口から出た物は、彼に対する疑問の言葉と口元にまで迫り上げていた流動物だけだった。
汚らしい嗚咽と共に吐き出された物に驚いて、彼も襟首から手を離し私の身体を蹴り飛ばすと、血相を変えて足下にかかった流動物の欠片をティッシュペーパーで拭き取っていく。
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