9/9
前へ
/60ページ
次へ
  それが彼にとって、不満に感じる事柄であるらしく。 離縁を言い渡される二ヶ月程前から、彼に読書以外の趣味を見付け、地味で暗い性格を改善する様に言われた。  根暗な性格を直せと言われて、具体的にどうすれば良いのか分からず四苦八苦する中、結局……私は彼に「裏切り者」と罵られ、縁を切られている。 不器用ながら努力もしていた積もりではあった。 普段読まないファッション雑誌を書店で立ち読みするなりしていたが、それすら彼は認めていない。 「そんな理由だと思っているから、無意識の内に俺を裏切る事が出来たんだろうが!」  私の言葉に怒り、彼は平手で頬を打ってもう一撃、鳩尾へ握り拳を叩き込む。 衝撃が空になった胃袋や周りの内臓にまで飛び火して、私の意識も朦朧とし始める。鈍痛からか無性に息苦しくなり咳き込む私から手を放して、彼はもう一度だけ小さな声で囁いた。 「そうだ。俺が新しく好きになった女の子とも会わせてやろう。但し……検証の為の“生け贄”としてな」 「生け贄……」  朦朧とする意識の中、鮮明に飛び込む彼の声に耳を澄ませる。 彼の言う新しく好きになった女の子や、生け贄とは何だ。 言葉へ疑問を感じる余裕も無く、彼は傍で蹲る私に向かって淡々と話を続ける。 「クルゥストゥス様の占いについて学校で訊いた事があるだろう? 新しい彼女もそれに関心を持っていてさ。生け贄になる相手を探していたのさ」  視界から光が消えていく最中。私は彼の持つもう一つの性質を思い出す。 オカルト趣味……彼は科学等では説明が付かない様な超常現象や都市伝説に触れる事を好んでいた。  私には内緒にし、無理に巻き込んだりはしなかったが、心霊スポットと呼ばれる危険な場所に、臆さず足を踏み入れたりする彼を心配していた事もある。 「生け贄探しに迷っていた所……丁度、お前の事を思い出してね。俺の前に、ほいほい出てきてくれて有り難う」  信じたくなかった。彼が私を儀式の生け贄に捧げようとしている事を。 私と仲良くしてくれた彼が残酷な行動に出た事を。 「クルゥストゥス様から聞き出す話の中で、不都合な事を言い出したら、お前を心身共にずたぼろにしてやる」  何でこんなにも酷く恐ろしい事を平気な顔で話せるんだ。 悪魔の様に悍ましく響き渡る彼の声も遠い彼方に消えていき、私の意識は此処で完全に途切れる事となった。  
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加