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驚いた眼で俺を見つめながら、震えた声で夜空が呟いた。
夜空がここまで驚いた表情を見せたのは俺と夜空が初めて会話したあの日――、夜空が教室でエア友達を喋っていた時以来だ。
「・・・どうかしたのか?」
夜空に尋ねてみたが夜空は、
「何でもない。小鷹がいきなり喋るから驚いただけだ」
早口でそう言い、床に落ちた本を拾って再び読書に戻ってしまった。
既に空は、赤い夕日の色になっている。
そろそろ帰ろうか――、そう思い俺は、カバンを手に取って立ち上がりドアへと向かった。
「じゃ、俺もそろそろ帰るわ」
「そ、そうか」
礼拝堂の廊下へ出ると、不意に10年前の親友を思い出した。
――もう10年も前の事だし、きっとアイツも俺の事なんか覚えていないだろう。
大切な思い出も別れの悲しみも、時間とともに風化してしまう。
一生お互いを大切に思える友達なんて、本当に有り得るのだろうか。
一抹の寂しさを覚えながら、俺は礼拝堂を出て家路についた。
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