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スタイリッシュなエルとは余りにも対照的な、まるで某空軍特殊部隊仕様の俺の姿に驚いて。
「どうしたイチ…何処の前線に行くつもりなんだ?」
「小野ちゃんをこの高級デジタル一眼でビシッと押さえるためには、風景に溶け込む必要があるからね」
なんて、秘密の使命を抱えた俺は適当に言い訳しちゃうけど。
素直なエルは全然俺の事疑ったりしないから。
「行こうか」
「うん!」
本当なら外でも手を繋ぎたいよな、なんて。並んで歩く俺の手の甲がちらりと指先で辿られるだけで、嬉しくなる。
「じゃあ…」
門を出たら指先すら触れられないからって、手をつないだ。
「此処の外に出るまでは」
たとえ手は離れても――心は繋がってるって、信じてる。
辿り着いた地下鉄AJ駅の券売機前で立ち止まって。
「あ、俺切符買うから」
ってウォレットをポケットから出したエルに。
「え?――ぱすもん持ってないの?」
「ぱすもん?…ってナンダ?」
ICカードの出始めの頃にはもうエルは鉄道は新幹線しか乗ってなかっただろうし。バスも乗らなければ必要ないのか。
「ホントに知らないんだねエル――。ほら、コレだよ?」
定期入れに入ってたICカードを見せる。
「俺のはクレジットカード兼ねてるからオートチャージだけど。プリペイドで前もって一定額に溜めておけるカードもあるよ?」
ほら、皆が改札で読み取り機にタッチしてるでしょ?って視線をやったら。
「改札でやたら電子音してたのってそれなんだ…」
俺も欲しい、直ぐ買えるか?って聞かれて。
「券売機で買えるよ?」
一緒に並んで、タッチパネルでとりあえず1万円金額指定して無記名のぱすもんを購入したら。
「カードが出てきた!」
あー。エルってば笑顔が可愛すぎる。
コレを改札に翳すと勝手に自動計算してくれるから、イチイチ出入りの時に精算が要らないからね?って教えてあげて渡したところまでは良かった。
ウォレットのカード入れに差し込んで。早速自動改札機に翳して駅構内に入ったエルが、嬉しそうに俺を振り返ってくるから。
『――あれ…?もしかしてコノイトルンじゃね?』
俺の近くを通った学生風の男の心の声が聞こえちゃった。
男はデニムのポケットを探ってスマホを取り出す。
来たよ早速…。何する気ですかお兄ちゃん。
更には『ぱすもん何処行った』なんて鞄の中探って、駅構内のエルに近づこうと企んでるみたいだから。
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