414人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんな寒い日に花火とか…貴方ホントにバカだよね?」
暑くても寒くても結局は俺には文句を言う君に。
「20本も無いから。すぐに終わらせて中でコーヒー飲もうね」
「はあ?――だったら一人でやるか…颯ちゃんを誘いなさいよアナタ」
自転車を全力で漕いだ20分後。カルナバルパンドラのステージで新作マジックの確認をしてた君の手を引っ張って庭に連れ出した。
寒がる君に、自転車漕ぎつづけてすっかり暑くなってた俺のPコートを貸すけれど。
華奢な君には袖も肩幅も余ってるのが可愛い。
「あの日さ。せっかく始めたのに、途中で夕立が降ってきて…やめたでしょ?」
病院の屋上で始めたのはいいけど、つけた花火が消えるくらいの土砂降りが降り始めて。慌てて搭屋まで君を抱え上げて走ったんだよ。
「アイダさんってホントに…貴方ってやる事なすことダメなときはダメだよね」
「リベンジリベンジ。このまま捨てたら勿体ないしね。はい、じゃあコレ」
長い竹籤の先に、銀と赤の斜めのストライプ状の筒がついている花火を手渡す。
「もうしけってるんじゃないの?」
蝋燭の火に近づけても中々始まらない花火に、君はもうやめちゃいたい、って言いた気だったけど。
「あ」
沈黙の後、火薬が弾ける小さな音が聞こえた。
「あ、点いちゃった…」
「やったね、まだ生きてたね~!」
シュー、と音を立てて、小さな赤い火柱が花火から噴き出してる。
「寒いから煙ばっかりで見えにくい」
なんて、君が花火の先で書いた円が。残像で残る。
小さくても綺麗な火花が。はかなく消えるとは解ってても、ちゃんと役割を全うさせてあげられた気がして。何だかうれしい。
次々と消費して、白い煙がうっすらと二人を包むようになった頃。
「なんかさ。――火薬の焼ける匂いって…懐かしい気がしない?」
「しない」
最初のコメントを投稿しよう!