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「――ごめん。このメーカーの事何も知らないんだけど…確か竹兄も、此処のカメラ持ってたよね?」
夏休みの横須賀旅行の時に竹兄が抱えてたカメラに、白いSIGMAのロゴマークがついてたのを思い出した。
「俺のはひとつ前のSA-7だ。元々レンズ専門のメーカーだったけど、今はカメラ本体も造ってるんだ。――カメラやってる奴しか知らないかもしれないなぁ」
俺は箱を開いて、緩衝剤をかき分けながら、中に埋まってたカメラを取り出した。
黒光りする新品のカメラは。箱に入ってた時より何だか重みを感じるから。落とさないように両手で抱えた。
「直ぐに撮れる?」
シャッター押せばいいのかな…って。カメラ本体の上の方についてる沢山のボタンのどれがシャッターなのか手で探ってたら。
俺の手を止めた竹兄は。
「フィルムをセットして…オートフォーカスとフラッシュ用の電池を入れれば撮れるぞ?貸してみろ」
俺の手からカメラを取り上げると。裏や底についてる蓋を次々開けて、手慣れた様子でフィルムや電池をセットしてから俺の手の上に戻してくれた。
「ほら」
「有難う」
こんなに大きいカメラ使ったこと無いから、どうしたらいいのか解らないけど。
「――ねえ竹兄。撮ってもいい?」
初めての1枚は竹兄が撮りたい。って思ったから声を掛けると、
「は?――俺?」
カメラのレンズを向けたら。竹兄は自分の顔に人差し指を向けて聞いてから。
「まぁ別にイイけど…カッコイイからな」
ふふん、なんて鼻を鳴らして嘯いてる。
「じゃあ…こっち向いて、笑って?」
ってお願いしたら。
「笑えって言われてもなぁ…」
苦笑いした竹兄は何故か両手で顔を覆い隠して。右手の人差し指と中指に隙間作ってこっちを覗き見るみたいにしたけど。
「誰だかわかんないよ」
でもとりあえず1枚。ってシャッターを切ったら、フラッシュの光で一瞬竹兄が浮かび上がって見えた。
「仕様がねえな…。じゃあこれでどうだ?」
階段から立ち上がった竹兄は、神門の脇に居る獅子の後ろに回りこんでからこっちに向かってひょい、って顔だけ出した。
「あはは!竹兄可愛い!」
うわ…何だろこれ…和んじゃう。って思いながらレンズを向けてファインダー覗いたら。
「成人とっくに超えた180オーバーの男を捕まえて御前。可愛いはねぇだろ?」
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