412人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
『マサヒコは君の事を本当の弟のように思っている』ってお父さんが言ってくれたことがあったけど。今でもそんな風に、竹兄は思ってくれてるのかな…。
「――竹兄今日はありがとう」
支度を終えた竹兄を見送ろうと思って立ち上がったら。
「――小野。少し外出られるか?」
声を掛けられた俺は、一瞬でも長く一緒に居たいんだから。断る理由なんかない。
「いいよ?」
「玄関で待ってろ」
竹兄は、階段を駆け上って自分の部屋に入って行くから、その間に俺は先に玄関でローファーに足入れて立ち上がる。
振り返ると、階段で足音がして。直ぐに竹兄が降りてきた。
「待たせたな。――御前ソレ寒くないのか?」
なんて聞かれるのは、多分俺が長袖のTシャツの上から何も羽織ってないからだろうけど。
「平気」
って頷いたら、
「――じゃあ…行くか」
外に出た途端。首回りに感じる外の冷たい空気に『しまった』って思ったけどもう遅い。竹兄急いでるから我慢して、気づかれないように竹兄と並んで歩いた。
20以上ある境内の石灯籠の蝋燭の明かりが。行く手を教えてくれるようにほんのりと照らしてる中を、玉砂利を踏む音聞きながら進んで行く。
神門を過ぎて、階段の頂上まで来たところで。
「小野」
半月より少し欠けてるくらいの月明かりしかない暗がりの中で呼び止められて。
「手ぇ出せ」
って言われたから。右の手のひらを上に向けて差し出した。
「――こう?」
俺の手の上に小さな箱を乗せた人を見上げる。
もう此処に来て4年経つのに。目の前の貴方に身長だって人としての器だって、なにひとつ差は埋まらないし、追いつけそうな気がしない。
箱を乗せた竹兄の大きな手が、恥ずかしいくらい小さい俺の右手を両手で包んで、ぎゅ、と温かさを俺に移すように一回握ってから、押されて思わず一歩下がった途端に離れて行った。
右手を開いて、手のひらの上の小さな箱を目の高さまで上げて、竹兄がくれた物が何かを確かめたら。
「Agfa」「ISO400」っていうロゴが赤い箱に印字されてる。
英語じゃない綴りのアルファベットが書いてあって。小さく隅に「MADEINGERMANY」とあるからにはこれはドイツ製…?
「カメラの…フィルム?」
これも見た事が無いブランドのフィルムで。竹兄って色々こだわりがあって物を選ぶ人だから。きっとこれを俺にくれた事にも理由があるはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!