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朝7時過ぎ。何時もならまだエルの腕の中でぐっすり眠ってるはずの時間だから。
窓から差し込んでくる白い光の眩しさに涙が滲んた。
「う…今外になんか出たら、俺朝日にヤラレそうだよ…」
シャワーを浴びた後とにかく寒くないように膨れるくらい着込んで。
エレベーターで地下の駐車場に向かう。
「車だと此処から1時間くらいかなぁ」
明かりをつけて、50台まで数えてたけどもう今ハッキリとした数は解らなくなってる希少車たちを目の前に。
今日はどれに乗りたい?って、歩きながら左右を眺めて尋ねたら。
うーん。と腕を組んだエルは。
「――なぁイチ、電車とバスで行こう」
「え…?――電車?バス?」
まさかの公共交通機関に乗りたいっていうエルのお願いに驚く。
「車なら何時でも乗れるだろ?――俺何時も車は移動車かタクシーだから、久々に乗ってみたいんだけど…」
「ええ?アナタが顔晒して歩いたら…」
外出た途端囲まれて…数メートルも進めなくなるでしょ、ってダメ出ししなきゃ、って隣を見上げたら。
「やっぱり――ダメか?」
一人だと不味いけど。
お前と一緒なら、プライベートだからって色々周りからお願いされても断って謝れるかなって思ったんだけど。なんて。
ちょっと俯いたエルの澄んだ大きな瞳に影が差す。
うわっ…。
そんな悲しそうな顔させた俺は極悪人だ。
――っていうか悪魔だったよ俺。
でも大好きなアナタには素直で優しい小悪魔だよ?
「んー。解ったよ。大丈夫大丈夫!――まだ通勤通学時間帯だし、実はそんなに自分が気にするほど皆意外に見てないと思うよ?」
って笑顔で返事しながら。全然大丈夫じゃないの解ってる俺は。
「あ…じゃあエル。俺忘れもの取ってくるからちょっと待ってて?」
うちの子たちをいつでも呼べるように。ポーカーカードのデッキを何時もより多く持っておく必要がある。
それに色々『始末』するにはこの格好じゃあ動けないって。
「あれ?カメラ?――って言うかコート着替えたのかオマエ」
最初はファーが襟にも袖口にももこもこ付いたダッフルコートとイヤーマフで可愛く決めてたけど。
アメリカ空軍御用達。アヴィレックスの迷彩柄フライトダウンジャケットに、編み上げのゴッツいミリタリーブーツで動きやすさを追求した上、寒さから完全防備できるって着替えてきた。
それもこれも全部。エルが快適に、安全に武蔵八幡まで辿り着くため。
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