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こんな時のためにと、
箱から出してミリタリージャケットのポケットに潜ませておいたポーカーカードを一枚指先に挟んで、フラリッシュして後ろ手に飛ばしながら口の中で呟いた。
『我に忠実なしもべとなりて、我が望むまま敵を果たせ。――目覚めよ。汝が名、アンドリアン』
俺が手の中のカードにイメージと魔力を込めながら名付ければ。
思い通りの姿の遣い魔を作り出せる。
今回は時間がなかったから、相手を威嚇できそうな感じ、なんてざっくりとしかイメージできなかったけど。
俺の背後から現れた、スーツに黒いコート姿、スタイリッシュなジュラルミンのコンパクトブリーフケースを提げた、180オーバーで上背のあるデキるサラリーマン風となった『アンドリアン』に。
――あの男をエルに近づかせないで。強行な手段に出そうだったら、どんな方法でも許すからとにかく止めて――
俺を追い抜かせて前を歩かせながら素早く厳命した。
『御意』
人型の遣い魔でもカードから造られてるから口で話すことはできないけど、主人の俺と心での会話は出来るから。
命じたことをちゃんと理解して、俺がどんな無茶な白紙委任しても何時もこの子達はイイ仕事をしてくれる。
今回先にぱすもんを翳して入った『アンドリアン』は、エルが男から見えないようにさりげなく立ち位置調整してる。
ラッシュ時間帯のAJ駅だ。ひっきりなしに通る人の波に揉まれて。
『あれ?――コノイトルン何処行った?』
ぱすもん見つけ出して改札内には入ったけれど、男はエルを見失ったみたいだ。
上々上々。とりあえず抹殺しなくて済んだ事を喜んで。
俺は安心してエルのところまで小走りで駆けていく。
「ゴメンエル。行こっか」
ちらっと後ろを確認したら、こちらを追いかけて来そうな様子は無かったから、とりあえずひとり追っ払ったことに安堵したけど。
これから先どれだけあんな輩が現れるか解らないから緊張感は続く。
次の子をすぐ呼び出せるようにまた手の中に1枚カードを忍ばせる。
「何か久し振り過ぎて何処で乗り換えとか全然解らないな…」
ホームへ続く階段を降りながら、途中に掲示してあるN線の路線図見てエルが言う。
「新宿だと移動大変だからO線止めてこっちにしたけど…。四谷でJRに乗換だね」
通勤時間帯の都心では余り意味は無いかもしれないけれど。
そうは言っても気持ちだけでも利用客は少ない方がいい。
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