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今年はいつもの年より寒いって言われてる冬なのにさ、北風が冷たい夜の庭で夏の風物詩の手持ち花火で遊んでるいい大人二人ってどうなのよ。って君は言う。
「冬こそ花火っていいと思うけどなぁ。――もしコレがルン君が持ってきた花火だったら。『綺麗だね』なーんて言っちゃって楽しんじゃうんでしょ」
「――貴方…何言ってるの?」
君の困った顔見ないふりして俺も開き直って、次の花火に手を伸ばすけど。
20本くらいしかなかった花火は、次々とバケツの水に燃え残りが刺されて、10分もしないうちに、最後の1本になってた。
「最後だよ。――やる?」
差し出した線香花火を、君は黙って受け取って。蝋燭の前にしゃがみ込んだ。
慎重に花火の先に蝋燭の炎を翳したら。シュ、って発火した音がする。
最初の牡丹は、ジリジリと細かく熱の玉を震わせた。
次の松葉は、激しくオレンジ色の火花が四方に散り咲いていく。
柳は、光の筋がすう、っと流れ星のように落ちて行って。
最後の散り菊は。はらはらと散る花びらのような儚い火花。
始めは散る花びらの数も多かったけれど、ホントの菊のように、残り少ない花弁をはらりと間をおいて散らすようになってきたから。
もう、終わっちゃう―――
冬の夜風に吹き消されそうになる炎の花弁。君は糸の先にある赤い炎の雫を、落とさないように気遣いながら、じっと見つめてるから。
思わず両手を差し出して、今にも落ちそうな炎の雫を両の手のひらで囲ってあげた。
「何してんの貴方。ヤケドしちゃうよ?」
「大丈夫だって。何か…花火が寒そうに見えたんだもん」
「もー。貴方って人は…」
儚げに揺れる光を手で包み込んでガードしている俺に。君は今日初めて笑ってくれた。
「アナタってどうして、何時生まれ変わっても子供なのかなぁ…。毎回毎回図体だけはデカくなるくせに…」
それは。
君より先回りして少しだけ早く生まれて。
君より必ず大きくなって。
何度生まれ変わってもどんなことがあっても、あの人に愛されたいって願って華奢に美しく生まれてくる君を、守れるためだよ?って言ったら。
また笑顔が掻き消えて、不機嫌にさせちゃうのかな…。
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