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「四谷から先は朝なのに空いてたよな…」
車内でも何人かエルに気づいた風のあらゆる世代の老若男女の心の声は聞こえてきたけど、優秀なウチの子達が完璧に俺達をガードしてくれたおかげで、此処までは何事もなく到着できたことにひとつ安堵した。
武蔵八幡神社の最寄駅M駅は、通勤時間帯のラッシュもひと段落したのか改札外は人もまばらで。もう普通に声で会話しても大丈夫だとエルも解ったみたいだ。
「下りだったから良かったのかもしれないね」
二人でぱすもん翳して改札を出て、俺がスマホでバスの時間を再確認してたら。
「イチ」
エルが駅の掲示板を指差すから何かと思って一緒に見上げた。
「ああ、武蔵八幡はこの町の鎮守の杜だからねぇ…って言うか。――何コレ!」
「『厄除 商売繁盛 八方除の御祈願は 武蔵八幡神社へ』って。別にフツーのポスターだろ。ホラ、サトリの事もちゃんと書いてあるぞ」
御社の写真に。初詣って赤い字が乗っかってて。
『11時~ 奉納居合 於 神楽殿 霧外流居合道 小野サトリ氏』
ポスターの下の隅っこの方にしか小野ちゃんの事載ってないし。
「書いてあるって…ダメじゃんこんなちっちゃい字じゃ!小野ちゃんがすっごく頑張って、初めて人前で演武するんだよ?数もまばらな淋しいギャラリーの前でやらせる訳には行かないの」
お正月の武蔵八幡の境内を、俺が人で溢れさせてやる。って。
一枚ポスターの写真を撮ってから。スマホの通話アプリ呼び出して電話をかけ始めた。
相手につながるまで暫くかかると思ったから。
「エル。北口の階段降りたら、Y駅前行きのバスで八幡神社前まで10分くらいかな。歩いたら20分くらいかかるけどどうする?――ちなみに。バスもぱすもん使えるよ?」
「バスがいい!」
間髪入れず答えが返ってくる。ぱすもんが余程気に入ったんだね。
「了解。じゃあ、こっちね?」
階段を降りてる途中で電話がつながった相手に。
「オハヨーございますマルさん。今オシゴト中ですか?」
『済みませんワンコールで応答できなくて!――オハヨウございます!ニノマエさんの為なら今すぐ仕事棄てて会いに行きます!!』
アイツか…相変わらず声デカいなぁ…と苦笑いするエルの横で話し始めた。
朝から電話の向こうでおかしなハイテンションで話す巨大総合広告代理店「電報舎」営業担当「円山雄平」通称『マルさん』は。
人格にかなり問題はあるけれど。
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