New Year's Eve×5 ~壱成の長い1日~

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「颯ちゃん」 って声をかけたら。 階段を昇ってくる俺達に気づいた颯ちゃんが、コートを持ってない方の手を少し上げて応えてる。 「――どうしたの?颯ちゃん今夜の予定って仕事入ってなかったっけ?」 「急ですがひとつ撮りのスケジュールが飛んでしまったんです。アイダさんに連絡したら、席が取れるから一緒にどうかと誘われて。ギリギリの時間ですが少しだけ抜け出してきました」 観終わったら直ぐにまた局に戻ります。なんて言う、マジメなサラリーマンは大変だ。 「ホントに人気アナだからって颯ちゃんも容赦なく扱き使われるねぇ…」 「――という訳でアイダさんを待っているんですが。電話も繋がらなくて…」 チケットが無ければ席には座れないから、立って待ち続けるしかない颯ちゃんは困り顔だ。 「まだ開演まで50分はあるだろ颯君。一緒にブッフェでコーヒーでも飲んで待とう」 って優しいエルが提案して上げてる。 「そうそう、此処で人待ち顔で立ってる方が目立っちゃうよ?颯ちゃん。ブッフェで俺と乾杯しちゃおうよ」 颯ちゃんのスーツの腕に手を掛けて。ぐいぐいと引っ張って階段を昇らせたら。 「終演後は直ぐに日のテレに帰るんですよ私は」 お付き合いしたくても飲めませんよ。代わりにアナタが沢山飲んでください、なんて言ってくれる。 実は颯ちゃんはどんな種類のお酒もイケちゃうクチだってアイダさんから聞いてたけど。 こんなに素直に話してくれるのが。半年前までの、人を毛嫌いしてた態度とは違いすぎて、ホントに不思議だ。 「乾杯って言ったでしょ?俺だって飲んだら直ぐ眠くなるから、頼んでもシャンパン一杯だけだよ?」 「一杯だけ?――それなら私も…」 ついに俺の案に乗っかってきた颯ちゃんを、 「仕事はどうしたんだよ颯君。いいから二人ともやめろ。――コーヒーにしろ」 って実は一番マジメなエルが俺達に説教を始めちゃうから。 「もー。エルってばオカタイんだから…」 「そうですよコノルン、3時間もあればシャンパン1杯分のアルコールくらい直ぐに抜けます」 颯ちゃんと二人掛かりで言い訳するけど。 「酒が抜けるからいいとか、そういう問題じゃないだろ。仕事があるって解ってるのに飲もうって言うその心構えが良くないって…」 「イイ事を教えてあげますよニノ。今でこそコノルンは『ストイック』の塊ですが、デビューする前までは本当にいい加減で…「ヤメロよ颯君!!」」
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