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アイダさんの笑顔を隣から見つめてた颯ちゃんが。
「――アサキ。大事な仕事だと話してくれていれば、私もこんな形ではなくて、きちんと時間を取って来たのに…」
あ、颯ちゃん凹んじゃってるじゃない。
どうするのよアイダさん。
「ごめんね?颯ちゃんの忙しい時期とこの仕事丁度重なってたから。無理してほしくなくてさ…――その代わり」
ジャケットの胸ポケットからホルダーをを取り出したアイダさんが。
「凄くイイ席、頑張ってゲットしてきたから」
中からチケットを取り出して颯ちゃんに差し出した。
「――2階11扉…R1R2?」
2階席ってコトは俺がアイダさんから貰ったS席よりはひとつグレードが落ちるA席だけど。
S席には無い『特別』があるんだよね。
「イイな~。コレボックス席でしょ?」
「にの正解!――この11扉は。俺達の座る2席のボックスシートのためだけにある扉だよ?」
大きな劇場なのに、誰にも邪魔されない二人だけの切り取られた空間が出来る。
「他のボックスは3席以上だし、上の階の座席が屋根みたいに張り出してるから、折角の生演奏がちゃんと届かなくなるでしょ。この右側の2席と。左側の2席だけが。個室な上舞台からも近い、特別な席なんだよ?」
「ずるーいアイダさん…」
「ズルくないよ?ニノ達にも最高の席を取ってあげたんだから」
「「あらし」は内容知ってるからアイダさんが担当した衣装さえ見られたら後はどーでもいい。俺もエルとちゅーしながら観たい」
「イチ。オマエは…何しに此処に来たんだ」
「ホントだよ。俺は別にちゅーするためにボックスシート選んだわけじゃないよ」
「でも手は繋いじゃうんでしょ。やーらしー」
「…こいびとつなぎ位はイイでしょ?誰にも見えないんだから」
100年前、俺がパリジェンヌ『マルレーン』だった頃。
俺はオペラ座の舞台から、エトワールとして踊りながら客席を見上げる側だったけど。
ボックス席は『社交界の貴婦人達が華やかに着飾って愛人と逢引する場所』だったよなあ。
そして、庶民は1階席が定番。
「俺達オケピのすぐ後ろの席だよ――パリオペラ座だったら…庶民席じゃん」
同じような席が某国立ではS席2万円オーバーだって言うんだからびっくりだ。
「もー。そんなに言うなら席交換する?」
って呆気なくチケットを差し出してくるアイダさんに、
「えぇ!?」
俺よりも颯ちゃんの方が驚いちゃってるじゃない。
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