New Year's Eve×5 ~壱成の長い1日~

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 スタンディングオベーションでアンコール4回っていう舞台はそうそう無いと思う。  劇場から熱気と興奮を纏って出てきて暫く外を歩くのに。全然寒さを感じないからって。 吐く息は白いのに。アヴィレックスの迷彩柄フライトダウンジャケットはまだ脱いだままだ。 「筋は知ってるのに、何て言うのかな、この…ライブ感って凄く大事だよねぇ?」 幕間も合わせて3時間もあったのに。ひと度引き込まれたら、自分も舞台に立ってるような臨場感があって。久々にいい舞台を観たって思えた。 「そうだな。それに――アイダさんの衣装が驚くほど良かった。あの頃を直に知ってるヤツが観たら成程って思えるアレンジだった」 シェークスピアが最後に描いた戯曲「あらし」は。 登場人物に「ミラノ大公」とか「ナポリ王」とか出てくるから、シェークスピアが実際書いた17世紀より随分前の話だ。  女性のドレスは上身頃はぴったりとタイトに作ってウエストを強調してるけど。裾はたっぷりとして長かったり。 生地そのものはは無地でシンプルだけど、胸元を大胆に開いて両袖に豪奢な刺繍を施した長い飾り布を垂らしたり。 「――そうか、アレは『コタルディ』なんだ。俺もフルフルさんも終わりかけのローマ帝国に居た頃かぁ…」 14世紀、ルネッサンス時代のシトリー様もあんなの着てたよ。 「時代モノの衣装はアイツ凄く得意になりそうだな」 「何時の時代もオシャレさんだったからねぇフルフルさんは」 なんて。俺達も実は新宿駅へ20分かけて歩いてた。 『俺もひと目でいいから、駅貼りのサトリのポスターが見たい』ってエルのお願いを。 俺が聴かない訳がないからだ。 『ただ。――カードで奴等を召喚するのはナシだぞ』 見つかったら直ぐ逃げるから。なんて言うから選んだ新宿西口の22時過ぎの地下道は。 此処って新宿なの?って疑うほどの人通りの少なさで助かった。 O線の乗換口近く。写真で見た風景が重なる。 「あ、――あった!!」 大きな白い柱が立ち並ぶ改札前に、三種類の中のひとつ。 「こうして観ると、中々いいなぁ」 拝殿をバックに、境内を一生懸命箒で掃除してる小野ちゃんの写真がそのまま大きく引き伸ばされた、シンプルなデザインだ。 『あなたに幸せが沢山訪れますように』なんて、白抜き文字でカワイイレタリングが乗っていて。 『初詣は武蔵八幡で。皆様のお越しをお待ちしています』なんて書いてある。
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