New Year's Eve×5 ~壱成の長い1日~

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「――そうか…」 エルが苦笑いしながらスーツケースのハンドルを引き出して、キャスターを転がし始める。 「なあ、聞いてもいいか?」 ちょっと言いにくそうなニュアンスを言葉の端に含ませてるから。 「なあに?」 出来るだけ構えないようにして何気ない返事をしてあげた。 「御前が今生で男になったのはどうしてだ?」 この数千年、熾天使ガブリエルが遭遇した悪魔シトリーは、どの時代のどの国でも必ず女性に憑いて生まれてきたから、今回俺が初めて男に転生した事は確かに不思議に思うだろう。 「――何時か話さなかったっけ?」 「まさか――どんな種類の女にも俺が靡かないから、とりあえず1回男になってみた…とか言う冗談みたいなアレか?」 「ちゃんと覚えてるじゃん」 薄暗い廊下を歩きながら、隣でエルはちょっと驚いた声を挙げた。 「アレは本気だったのか」 「もうね、生まれ変わる度いろんな美女のパターン試し過ぎて。どうしたらいいか解んなくなって、必死だったの」 「俺だって何時も言ってただろう。『悪魔が』キライなだけだって。お前が悪魔じゃなければいいのに、って何時も思ってた」 「――え?」 隣を振り仰いだら。俺の方を見てたエルと視線が交わった。 「初めてオマエと――ヒラー山で会った時から。シトリーのテンプテーションに、俺はずっとかかりっぱなしだったのかもしれない。何時の時代のシトリーにも、眩暈がするほどそそられてたから」 自分が何時『悪魔』の誘惑に負けるのかと思うのが恐くて俺の方が必死だったんだって告白されて。 「もっと早く、負ければよかった」 伸びてきた指先で頬を撫でるみたいに髪を掻き上げられて。 「あ…っ」 耳朶に指先で触れられた途端、思わず声を挙げちゃった。 何気なく触れられるだけでこんな声出して、 幽かに出た声が余りに甘かったから、恥ずかしくて固まってたら。 ぎゅ、って。手放したスーツケースが倒れるのも構わずエルに抱きしめられた。 俺が見上げた角度の唇は黙ったままのエルのキスで塞がれて。 柔らかい唇が、俺の唇を挟むみたいに優しく甘噛みして、吸い上げてくるからふる、って小さく震えた。 ちらりと出した舌先で誘って。お互いの舌を触れあわせる。 眩暈で足元がふらついて、両手でぎゅっ、てエルのコートの胸元を掴み締めた。 口づけたまま追い詰められて後ずさりしたら、行き止まりの壁に身体が押し付けられる。
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