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俺が着こんでたフライトジャケットのジッパーが勢いよく引き下ろされて。
耳に届いた音が鋭かったから、少し怖くなった。
「エル、ちょっとま…っ」
抵抗するのもムダとばかりに、
耳朶から、上向いた喉元に熱い唇が辿ってきて、差し込まれた手のひらがゆっくり腰を滑る。
「やっ、ぁ…んっ」
一瞬のうちに怖さも抗う気持ちも吹っ飛んで。
エルの広い背中に腕を回して。廊下の冷えた壁に背中を預けたまま甘い声を挙げさせられた。
エルはもう一度俺の耳朶に口づけてから囁いてくる。
「ベッドに、戻ろうか」
「あぁ…」
少し泣いてた俺は、涙声のまま、エルにしがみついた。
今夜のエルは俺の不安も、戸惑いも全部忘れさせてくれるくらい激しくて。
「る、んっ…」
火が消えた暖炉のかすかな温もりしかない部屋だったけど、もうしっとり汗の浮かんだ身体をまとわりつかせて、エルの素肌の背中に爪を立てる。
脚を抱え上げたエルは、もっと深いところまで突き上げてきた。
「イチ…」
乱れる息の合間に、俺のこと呼んでくれる甘い声。
「るん」
こぼれ落ちて頬を伝う涙が、エルの舌先で拭われる。
「るん」
涙に霞む瞳で見上げて、熱に浮かされたように、探し求めるように貴方を繰り返し呼ぶから。
「ルン」
エルは俺の事抱きしめると低い声で囁いた。
「俺は此処だよ」
言いながらゆらりと身体をゆらして。俺の中に居るってちゃんと解らせて安心させてくれる。
「あ、ぁ…」
もっと感じたくてぎゅうぎゅう締め上げたら、それに逆らうように、エルが進んできた。
整わない息のまま、離れないように、縋り付くように抱きついてたら、深く口づけられて。
頬にまた涙が伝い落ちるのを、その熱で気づかされたのが。
この夜の俺の最後の記憶だ。
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