New Year's Eve×5 ~壱成の長い1日~

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俺が着こんでたフライトジャケットのジッパーが勢いよく引き下ろされて。 耳に届いた音が鋭かったから、少し怖くなった。 「エル、ちょっとま…っ」 抵抗するのもムダとばかりに、 耳朶から、上向いた喉元に熱い唇が辿ってきて、差し込まれた手のひらがゆっくり腰を滑る。 「やっ、ぁ…んっ」 一瞬のうちに怖さも抗う気持ちも吹っ飛んで。 エルの広い背中に腕を回して。廊下の冷えた壁に背中を預けたまま甘い声を挙げさせられた。 エルはもう一度俺の耳朶に口づけてから囁いてくる。 「ベッドに、戻ろうか」 「あぁ…」 少し泣いてた俺は、涙声のまま、エルにしがみついた。 今夜のエルは俺の不安も、戸惑いも全部忘れさせてくれるくらい激しくて。 「る、んっ…」 火が消えた暖炉のかすかな温もりしかない部屋だったけど、もうしっとり汗の浮かんだ身体をまとわりつかせて、エルの素肌の背中に爪を立てる。 脚を抱え上げたエルは、もっと深いところまで突き上げてきた。 「イチ…」 乱れる息の合間に、俺のこと呼んでくれる甘い声。 「るん」 こぼれ落ちて頬を伝う涙が、エルの舌先で拭われる。 「るん」 涙に霞む瞳で見上げて、熱に浮かされたように、探し求めるように貴方を繰り返し呼ぶから。 「ルン」 エルは俺の事抱きしめると低い声で囁いた。 「俺は此処だよ」 言いながらゆらりと身体をゆらして。俺の中に居るってちゃんと解らせて安心させてくれる。 「あ、ぁ…」 もっと感じたくてぎゅうぎゅう締め上げたら、それに逆らうように、エルが進んできた。 整わない息のまま、離れないように、縋り付くように抱きついてたら、深く口づけられて。 頬にまた涙が伝い落ちるのを、その熱で気づかされたのが。 この夜の俺の最後の記憶だ。
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