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――コレは朝までに武蔵八幡に戻るのは無理か…。
苦笑いするしかない俺は。ベッドから起き出して、冷え切ったデニムを床から拾い上げて穿いたら。
裸足のまま、ベッドから廊下を往復して。俺がイチから勢いのまま剥ぎ取ったコートや服を拾い集めて歩いたり。
イチを抱き寄せた時に放り出して倒れたスーツケースをとりあえず立てて置いたりと自分が衝動のままにしてきた粗相を今更ながらに反省させられる。
素肌の肩や背中が冷えた空気に晒されて、大きな身震いをひとつ。
「寒…っ」
暖炉まで戻って。薪を格子状に組んで並べたら。ファイアースターターに火をつけて投げ入れた。
部屋に暖かさが戻るまでには暫く時間がかかるから、またベッドに戻って。
冷えた肌に温もりを分けてもらいたくて、象牙のような滑らかな素肌を抱き寄せたら。
「ぅん…」
意識の無いはずのイチは、身を捩るようにして俺の胸元に潜り込みながら曖昧に喉を鳴らして応えてきた。
「――っ」
また、胸にこみ上げる切なくて甘すぎる感情を持て余すしかなくなって。
全部覆い隠すように掴んだ毛布を引っ張り上げて、壱の肩に掛け直した。
御前と触れ合えるようになって知った、カラダだけじゃなくて、気持ちまで暖められるようなこの感覚こそ。
俺がずっと探しててやっと見つけた『愛情』ってヤツな気がするなんて言ったら…。
『嬉しい』って笑ってくれるか。
『大袈裟だなぁ』なんて困った顔するのか。
腕の中で穏やかに寝息を繰り返す壱は、少し微笑んでるだけだから。
今ここで壱の言葉で確かめたい。
目の前の滑らかな肌を思い切り苛みながら、喘ぎ声に絡ませて答えさせたいなんて、込み上げてくる欲望と衝動を抑えるしかない。
「おいおい俺…勘弁してくれよ」
こんな可愛い寝顔してる壱を無理矢理起こして何する気だ?
薄い暗闇の中で葛藤して溜息を吐いた。
まさか自分が、こんな感情を持つようになるなんて、思ってもみなかった。
「……寝よう。寝て忘れよう」
急に、自分で自分が恥ずかしくなった。
熱くなってるのが自分で解るから、顔なんかきっと真っ赤で、とても壱に見せられたモノじゃあない。
「お休み…」
胸の中に華奢な身体を抱き締めなおした。
朝8時半。タクシーから降り立って見上げたら。
「社務所に迎えに行ったのに。居ねぇなと思ったら…――朝帰りか」
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