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「――そうなんだ」
ふにゃ。と少し口元を歪めて笑う成瀬はまだまだガキで、可愛い顔になるのを見るにつけ。
まあ親父が預かってるコドモだしそれなりに心配になる。
「大丈夫か成瀬オマエ。カツアゲとかされてんじゃないのか?」
登校は途中まで一緒だから、駅の方向に並んで歩いてるけど。
成瀬と同じ制服を着ててこんな姿の奴は近所で他に見かけたコトはない。
「かつあげ?――無いよ?」
まあ見た所痣や傷をこさえて帰ってきた事はないから、今のトコロは平気なんだろう。
中学校と駅との分岐点で別れ間際に。
「成瀬。知らない奴に話しかけられたら。取り敢えず全速力で走って逃げろよ?」
俺より20センチは低い処にある金髪ドレッドの頭に手を乗せて撫でたら。
凸凹の感触が髪とも思えない不思議な感じだけど。
成瀬はびっくりした顔で目を丸くして俺を見上げた後で。
「――解った。…行って、きます」
飛び退って。薄い鞄を肩に担いで俺から逃げるように駆け出して行った。
受験生でとっくに部活も引退して、放課後直ぐに下校する俺は。5時前には家に帰って受験勉強らしきことをしてた。
その日も黄昏時に神社の敷地内にある自宅に戻ってきて。
宮司家として我が家がお祀りしている武蔵八幡神社の参道わきの石灯籠に火を入れて回る神職姿の親父殿を見つけた。
「お帰りマサヒコ」
「――タダイマ。なぁ――成瀬は帰ってるか?」
全部で4~50はあろうかという石灯籠のひとつひとつに親父殿が火を灯すのを、俺は手伝いもしないでじっとついて回って観てるだけだけど。
そう言えば生まれて此の方。神社の事で『手伝え』って言われたコトは一度も無かったなんてふと思う。
「いいえ。領君はまだ戻ってないですねぇ」
「なぁ…親父」
「何ですか」
「アイツすげー暗いしあんなカッコしてるけど…悪い奴に見えないよな」
「――領君が悪い子に見えるとしたら。その人の心が悪いコトを考えているからですよ」
言いながら振り返った親父殿は手燭の火を俺との間に掲げて。穏やかに笑って見せた。
「やはり領君はウチに連れて来て正解でした」
「何で?」
「あの子の事を、きちんと理解できる人間が身近に居ることは良い事だ。マサヒコはその一人になれる素質がありそうだと解ったからです」
「『理解できる』って。そんな大層なコト考えちゃいないよ。何となくそう思っただけだ」
「今はそれで十分です」
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