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青春、始動!!
チチチチ。チチチチ。
小鳥のさえずりが、肌寒い朝の空気の中を響き渡る。
「さて、と。」
竣介は、窓から差し込む朝陽に背を向ける形で座した。
まず左足をひき,体を垂直に保ったまま,
左膝を左足先があった位置に下ろす。
次いで,右足を同様にひいて、右膝を下ろす。
この時、両膝の感覚は握りこぶし二つ分空けておく。
両足の親指と親指とを重ねて臀部を下ろし、
体をまっすぐに保って坐る。
両手は,両大腿の付け根に引きつけ、
指先をやや内側に向けておく。
ーこれが「正座」である。
両膝から、握りこぶし二つ分前方に両手をつき、
上体を静かに下げて、敬意を表する。
これが「座礼」。
誰に対する敬意か?
自分を高めることのできる、この空間に対して。
自分が産まれるより以前から、
歴史を紡いできた先人達に対して。
そして何より、その先人の中でも最たる存在に対してー。
座礼から、ゆっくりと上体を戻すと、
正面の壁上部に一枚の写真がある。
この武道の創設者、「加納治五郎」その人である。
柔道。
一人の男の、三年間に渡る大いなる「道」は、
この畳の上で始動する。
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