街のひかり

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ある小さな街、ある大きなスラムで、女の子が一人道で泣いていた。 なぜ泣いているのかは、誰にも分からず、なぜ女の子が一人なのかも、誰にも分からず。 幼い女の子の泣き声に、迷惑そうにしている周りの人間。 見かねた少年は、女の子に近付いた。 ただ少年は、女の子のコトは何も知らなかった。 しばらくして、少年の所へ一人の大人が来た。 少年が女の子とスラムの中の花畑で遊んでいる時、その男は現れた。 男は「見つけてくれて、ありがとう。その子は大事な娘なんだ」と言った。 少年は「そうですか」と言って、花の上で寝ている女の子を見た。 その様はまるで、花に囲まれた美しい死体のようだった。 男は女の子を優しく抱き上げ、少年にもう一度礼を言って、花畑を立ち去った。 人工的な花畑の中、少年は静かに女の子を見送った。 自分の家に戻り、少年が一息つく。 今までは女の子と暮らしていたこの空間が、今はなんだか物悲しい。少しの間だったが、少年は楽しかった。 少年は、顔を洗いに洗面所に向かった。 そこは洗面所と言うにはあまり似つかわしくなかった。スラム故、仕方のない事だが。 洗面台に水を溜めて、ばしゃばしゃと顔を洗う。 俯いていると、水面に少年の顔が映った。 長めの黒髪、大きな目は真っ黒で、唇と頬は綺麗な桃色。 よく知っている、顔。 少年が水面に映った少年を見ると、それは睨むように少年を見ていた。 少年は小さくため息をついて、洗面台の栓を抜き、水を捨てた。 少年の顔が、ゆっくり、ゆっくり、歪んでいった。 少年が散歩していると、いつか女の子を連れて行った男と会った。 男は少年を見るなり、ニカッと笑った。 男は、言った。 あの女の子は高値で売らせてもらった。今頃、生きているか死んでいるかもわからない、と。 少年は「あなたの娘なら、あなたの勝手です」と言った。 男は首を振る。 あの娘は、自分の娘ではない、と。 少年は、無表情に、「そうですか」と呟いた。 そして、男に 「僕には、関係ないので」 と言った。 小さな街の、大きなスラムに、ゴミ捨て場があった。人気のないそこに、一人の人間が棄ててあった。 男は、醜い顔で、喉をかっ斬られて死んでいた。 男の胸元に、人工的な花が一輪、添えてあった。
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