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快晴のはずが、急に空に雲の量が増し、少年はやむなく雨宿りをすることにした。
スラムには飲食店などもちろん無く、家と呼べる家も無かった。
なので、少年はそこら辺の木の下に慌てて移動した。
木の下でも少しの雨は防げない。少年はびしょびしょに濡れた服を着心地悪そうに見る。
空を見上げ、小さくため息をついた。
しばらくは止みそうにないだろう。雲は黒を増すばかりだ。
家に避難したのか、周りに人気はあまりない。
木の幹に座り込み、少年は止みそうにない雨が止むのを、待つことにした。
「ねぇ」
少年は膝に顔を埋めたまま、雨の音を聞いていた。
「ねぇ」
雨の音を聞く。
「無視か?感じ悪いな」
その言葉で、やっと自分に言われているのだと気付き、少年は「え?」と顔を上げる。
目の前には一人、女の子が立っていた。少女、と言うべきか。歳は少年より少し下くらい。短い麦色の髪が印象的だった。
「何?」と少年が首を傾げて尋ねると、少女は言った。
「おれ、ティルってんだ」
少年は不思議そうに「そう」と言ってまた膝に顔を埋めた。
ティルは少年を見下ろして、無言で少年の隣に座った。
雨は、まだ止みそうにない。
「名前、何てゆうんだ?」
ティルに聞かれ、少年は自分の名前を答えた。
ティルは「そっか」と言って、空を見上げる。
厚い雲は何だか黒く見え、木の葉から落ちてくる雨が顔に当たって思わず目をつむる。
少年はティルに尋ねた。
なぜ自分のことを、おれと言うのか。ティルは怪訝そうな顔で少年を見る。
「だっておれは、おれだろ?」
男は普通おれって言うんだ、とティルと名乗る少女は言った。
麦色の短い髪と、大きくて可愛いらしい目が印象的な少女だった。
少年はしばらくティルを見つめ、「そっか」と呟いて笑った。
初めて、ティルが笑った。それはどこからどう見ても、可愛い女の子にしか見えなかった。
雨が少し小降りになって、ティルが突然立ち上がった。
「もう、行くから」
そう言って、少年に自分の着ていた上着を渡した。
「あんた、寒そうだから」
ティルが笑顔で言う。
小柄な少女の身体は、雨で濡れていた。下着が雨で透け、身体のラインを現わにする。
少年は視線を少し逸らし、「ありがとう」と言って上着を受け取った。
ティルが、言う。
「あんたが初めて、おれのこと男って認めてくれたよ」
本当に嬉しそうに、言った。
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