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そう言って、彼女はクートと呼んだ飛行機に乗った。
手すりを持ち、少し足を開いて立つ。
「燃料と呼べるとすれば、風。小さな風でもいいのよ。それを読んで…」
足元の草が揺れた。
さわさわという、小さな風。
「飛ぶ!」
その小さな風を受け、彼女は空に舞い上がった。
とても、人が一人浮かぶような風じゃなかった。せいぜい、風船がひとつ浮く程度の。
「渡り鳥ってさ、そもそも風読みが、俺らの何倍も上手い種族なんだって。だから小さな風でも、操れる。すごいだろ。」
「うん…すごい…。」
見上げると、上空を自由に飛び回る女の子。
風を操る?
違う。
操るっていうより…
「…と、こんな感じで飛ぶのです!渡り鳥は、小さい頃からクートの練習をして、一人でどこでも行けるようになるのは、大体10歳くらいからかな。」
音もなく下りてきて、彼女は言った。
「でもトワは、7歳から一人でクートに乗って、この街に来たよな!トワはすげーんだぜ!昔から風読みが上手かったもんな!」
「シ、シン…そんなハードル上げないでよ…。」
「うん…風を操るっていうか…風が、トワの周りに集まっているみたい。トワも風そのものみたいだった。綺麗だ。」
「…」
「イチ…お前たまに、恥ずかしいこと真顔で言うよな。」
「えっ!?」
「普通言わねぇよ。同い年の女子に、真顔で綺麗。」
「あ…!えーと…!綺麗っていうのはつまり、綺麗に飛ぶんだね、ってことで…!」
しまった。なんか大事な主語が抜けた。これだと俺が口説いてるみたいじゃないか。
「…ありがとう。」
少し照れ臭そうに、微笑んだ顔を見て、でもやっぱり、綺麗なんだと思った。
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