渡り鳥

11/11
前へ
/41ページ
次へ
そう言って、彼女はクートと呼んだ飛行機に乗った。 手すりを持ち、少し足を開いて立つ。 「燃料と呼べるとすれば、風。小さな風でもいいのよ。それを読んで…」 足元の草が揺れた。 さわさわという、小さな風。 「飛ぶ!」 その小さな風を受け、彼女は空に舞い上がった。 とても、人が一人浮かぶような風じゃなかった。せいぜい、風船がひとつ浮く程度の。 「渡り鳥ってさ、そもそも風読みが、俺らの何倍も上手い種族なんだって。だから小さな風でも、操れる。すごいだろ。」 「うん…すごい…。」 見上げると、上空を自由に飛び回る女の子。 風を操る? 違う。 操るっていうより… 「…と、こんな感じで飛ぶのです!渡り鳥は、小さい頃からクートの練習をして、一人でどこでも行けるようになるのは、大体10歳くらいからかな。」 音もなく下りてきて、彼女は言った。 「でもトワは、7歳から一人でクートに乗って、この街に来たよな!トワはすげーんだぜ!昔から風読みが上手かったもんな!」 「シ、シン…そんなハードル上げないでよ…。」 「うん…風を操るっていうか…風が、トワの周りに集まっているみたい。トワも風そのものみたいだった。綺麗だ。」 「…」 「イチ…お前たまに、恥ずかしいこと真顔で言うよな。」 「えっ!?」 「普通言わねぇよ。同い年の女子に、真顔で綺麗。」 「あ…!えーと…!綺麗っていうのはつまり、綺麗に飛ぶんだね、ってことで…!」 しまった。なんか大事な主語が抜けた。これだと俺が口説いてるみたいじゃないか。 「…ありがとう。」 少し照れ臭そうに、微笑んだ顔を見て、でもやっぱり、綺麗なんだと思った。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加