渡り鳥

2/11
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
街一番の時計塔は、隣街からも見え、人々の時間を刻んでいる。 夜は塔の頂上に明かりが灯り、飛行機の道しるべにもなっている。 それ以外は特に目立った特徴のない、山間の小さな街。 俺はそこに越してきて、そろそろ半年になる。 「イチ!今日なんか予定ある?」 「今日?別にないけど。」 「じゃあ、渡り鳥見に行こうぜ!今日到着するって、ニュースで言ってた!」 「渡り鳥?シンお前、ほんと生き物好きだね。」 「ま、実家が実家ですからね。」 「そうか。」 友人のシンの父親は、時計塔のメンテナンスを、母親は、時計塔の掃除を仕事にしている。 単純に高いだけの塔は、動物にも格好の休憩所らしく、鳥が方角の目印にしたり、うさぎが日陰を求めて寝に来たり、たまにリスが木の実を隠しにくることもあるそうだ。 「オヤジやお袋は仕事でやってるけど、俺はボランティアだぜー!せめて小遣い上げて欲しいね!」 と愚痴を溢しながら、うさぎが起きるまで側にいてやったシンの笑顔を、俺は今でも覚えている。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!