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俺が半年前、初めてこの街に来たときも、まず目を奪われたのが、この時計塔だ。
もともと建造物や美術が好きで、街の規模の割に、細かい模様や彫刻の塔が気になり、引っ越し作業もそっちのけで、あそこの流線形が…なんて、ずっと考えていた。
俺が集中すると、なかなか途切れないことを知っている両親は、黙々と引っ越し作業を進めているのが、背後の気配から窺える。
そろそろ作業に戻らなきゃな…
「時計塔、好きなの?」
そう思っていた時に話し掛けて来たのは、親でもなく、引っ越し業者の大人でもなく、通りすがりの、おそらく同い年くらいであろう少年。
「…時計塔っていうか…建造物が好き。」
若干人見知りのある俺は、それだけ返すのが精一杯だった。
「ほんと!?じゃあ今度もっと近くで見てみなよ!装飾とか、窓とか、意外と凝ってんだぜ!」
「はぁ…。」
「お前、いくつ?」
「…12歳。」
「まじで!同い年じゃん!俺はシン!あの時計塔のとこに住んでんだ!」
「俺は…イチ。」
それが、シンとの出会いだった。
やはりというか、学校に行ってみると、シンはクラスの真ん中にいるような存在で、男女共に仲がいい。
俺も決して友だち作りが下手な訳でもないのだが、まあ一言で言うと、シンは人気者。俺は凡人。以上。
それでも初日に会った縁か、シンとは一緒にいることが多いのも確かで、何度も一緒に時計塔を登った。
そして今日も、そこへ向かっている。
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