渡り鳥

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「イチ!急げよ!もうすぐ日が落ちちゃうだろ!」 「別に落ちても大丈夫だろ。それとも、夜は飛べない鳥なのか?」 「そうだよ!日があるうちしか飛べない!だから絶対、日暮れ前に塔に着かなきゃ!」 「…そうなの?」 俺はシンみたいに動物に詳しい訳じゃないけど、昼間限定でしか飛べない鳥なんて、あまり聞いたことがない。 「この辺の地域でしか見れないからさ!イチは知らないと思うんだ!だから今日は、飛んでるところを見せたくて!」 だが、そう屈託なく笑うシンの眼は、冗談を言ってるとも思えない。また、そう言われて悪い気もしない。俺は少し、歩く速度を速めた。 塔に着いたのは、日暮れの少し前だった。 「間に合ったー!」 「なあシン、その鳥って珍しいの?さっき、この辺にしかいないって言ってたけど。」 「超珍しい!まあ見てなって。風上から来るから。」 ふと気が付くと、俺たち以外にも、人が結構集まっていた。みんな渡り鳥を見に来たのだろうか。上空をチラチラ見上げながら、今か今かと待っているようだ。 「…あれ?」 なにかおかしい。あくまで俺の勝手なイメージだが、バードウォッチングをするなら、双眼鏡なり、カメラなり、なにかしら持っているはずだ。 だが周りにいるは、お洒落をした若い女性、お土産らしき袋を持った主婦、少し緊張した面持ちのスーツ姿の男性。 俺やシンみたいに、ただ見に来ただけ、って人間もいるだろうけど、それにしても、鳥の専門家らしき人が全くいないのはおかしい。この地域特有の種なら、なおさらだ。 これではまるで、ただの待ち合わせ…。
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