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男がいた。
唐突に目の前にだ。
最初からそこにいたような不遜な態度だ。
彼は手に銃を持っている。
銃口は私に向いていた。
「誰?」
「俺か?さあ、誰だろうな」
「自分のことなのにわからないのか?」
「自分のことを全て知っていることはない。貴様は自分が殺した蚊の数を覚えているのか?」
「覚えてない」
「そうだろうな」
「私はどうしてここに?」
「ここに来るべきだったからだ」
「帰りたいのだが」
「帰る場所など無い。死んだ場所こそ帰る場所だ」
男はそう言って引き金を引いた。
パァン!
弾は当たらなかった。
現れた時と同じように男は消えていた。
唐突に。
床についたはずの銃痕も無かった。
ただ私はいっそ当ててほしかった。
この部屋に残されるくらいなら。
しかし、男は二度と現れなかった。
私は置いていかれたような気分を覚えた。
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