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チェス盤が部屋の中心に置かれた。
もはや驚きはない。
チェス盤の前には老人が座っていた。
彼はよろよろと白のポーンを動かした。
そして動かなくなった。
私は黙って彼の真正面に座り、同じように黒のポーンを動かした。
老人は見ているのかいないのかわからない虚ろな瞳でチェス盤を見つめている。
彼は再びポーンを動かす。
暫くは、彼とのチェスが続いた。
「黒と白、君はどっちかな?」
不意に老人が嗄れた声で話しかけてきた。
「私は黒を使っている」
「儂は白だ。しかし、白は黒に常に塗りつぶされる」
「そんなことは」
「ある」
否定しようとした私の言葉は見事に遮られた。
「いつの世も黒が強いのだ。今だってほら」
老人は自分のクイーンで自分のキングを小突いた。
呆気なく倒れる。
「裏切りなどないと誰が決めた?国はいつだって力によって滅びる」
彼とチェス盤は消えた。
彼の駒は自らの力により負けた。
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