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彼女の背を擦ってやりながら、彼女を運んできた人物は斎藤に視線を向けた。
「……でも、山南さんは死にはしない、って言ってたよな」
「…あぁ。あの人の言い分では、な」
「……言い分では、って何だよ…!?」
「落ち着け、新八。…で? どうしてそうなる?」
斎藤の含みのある響きに反応した男を宥めると、紗代をここまで運んできた、銀に近い髪を高くで結上げた男は斎藤に続きを促した。
「……前に山南さんが言っていた。最後に巫女が現れたのは百数十年前だと」
「…つまり、山南さん自身は見てない、ってことか……」
斎藤の言葉に合点が言ったとばかりに銀髪の男は頷いたが、その隣では一人、理解不能と頭を掻きむしっていた。
「だから何だってんだよ……」
「新八。良いか。つまりだな、もしかしたら死んでしまった巫女様も居たかも知れない、ってことでな」
幼子に教え込むように銀髪の男が言った言葉に、斎藤も静かに付け加えた。
「全て歴史が伝わってきているとは限らない。山南さんの先祖が、巫女が亡くなった事実を隠ぺいした可能性もある。……そういうことだ」
その可能性に、新八も色を失った。
「……そしたら、この娘ももしかしたら…ってことかよ?!」
「…ありえなくはない」
目を閉じ淡々と言い切った斎藤から、視線を少女、そして諸士調役兼監察方でありここ新選組の医療関係も受け持っている山崎丞へと移した。
山崎は、その視線から目を逸らし首を振った。
「……今夜が山場かと」
「……嘘、だろ………。…この娘が何をしたってんだ…。勝手に連れてこられて。勝手に殺されて、ってかよ…?! ふざけんな…っ!!」
「新八。お前の気持ちはよく分かるが騒ぐならここではない場所にしろ。……病人に響く」
「……んなの分かってるさ……。…だけど……!!」
怒りのやり場がなく畳に拳を打ちつける。
――これではあまりにも彼女が可哀そ過ぎる。
「…くそぉぉ…っ!」
「……新八……」
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