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震える背へ手を伸ばしかけた銀髪の男は、気配を感じてハッと動きを止めた。
それは他の者も例外ではなく、それぞれに構えた姿勢をとった。
苦しげな息遣いだけが室内に流れる。
「…っ。はぁ…っ、は…ぁっ……」
――ちりん。ちりん………
ちりん。ちりん……。
鈴の音が止む。と同時に中庭に面した襖をすり抜けて一人の幼女が入ってきた。
様子を注意深く伺っていると彼女は紗代の額に手をかざし、次いで身体の上に手を乗せた。
そうして、すぐに立ち上がると彼女は一同の方を向いて薄く笑った。
『この少女は巫女。けれど……ひどく脆い。汝らに巫女を保ちきれるのだろうか…』
「……どういうことでしょう」
斎藤の問いにも幼女は小首を傾げて口を歪めるだけだった。
『さて、な……』
次の瞬間。幼女の姿は煙となって消えた。
**************
「……!! …呼吸が安定しました。……助かるかもしれません」
紗代の様子をいち早く確かめた山崎が、少しホッとしたように皆に告げた。
「……まじかよ…!!」
「…良かったな、新八」
「あぁ…!!」
嬉しそうに笑う新八から少女を見やると、確かに。先ほどよりも大分血色も良くなっているし、寝顔も穏やかになっていた。
「………すぅ…す…ぅ……」
「……副長たちに事の次第を報告してくる」
斎藤が立ち上がって部屋を出て行った。
その背もどこか安堵しているように見えたのはきっと、気のせいではないだろう。
――俺たちは皆、人の死を喜ぶような人間ではないから。出来れば一人でも多く生かしたい。そんな想いを持ちながら、日々生きているのだから。
**************
「…様子はどうだ?」
「……あぁ、原田さん。…もうここまでくれば大丈夫でしょう」
「…そっか」
それから数刻の後。
再び少女の部屋に顔を出した銀髪の男――原田は、付きっきりで看病を続けていた山崎の向かいに少女を挟み込むような形で腰を下ろした。
「…すまなかったな、嬢ちゃん」
汗で頬に張り付いた髪を払って梳いてやる。
「……原田さん。眠れないんですか?」
手拭いを桶の中の水から出して絞りながら山崎が声だけを向けてきた。
「…ん? あぁ。今日は俺の巡察当番じゃねぇし、ちょっとな…気になっちまって」
――此方の都合で危篤になった彼女がとても気の毒だった。
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