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――にしても。
「…よく、あんなもの飲んだよ……」
クスリ、と苦笑すると、その辺の事情を知らない山崎が眉を寄せた。
「…飲んだ? 何か飲ませたんですか…!?」
「あ~…、いやな…」
かくかくしかじかと出来事を伝えると、山崎は露骨に表情を固いものにした。
「……あんまりでしょう、それは」
「…………やっぱり山崎もそう思うか?」
「当然です」
すぐに首を縦に振る。
「人攫いも良いところです。しかも理解しきっていない少女にいきなり二択を迫るなど……」
山崎の顔が一気に怪訝なものとなる。
「…だよな。……だけどさ、この娘は助けてとか何とか、って一切騒がなかったんだ。それどころか、困惑はしてるけど怯えてはいない、みたいな感じでさ。理不尽な二択を迫られた時も、薬を選んだ。…俺は、度胸据わってる娘だな、って思ったよ」
原田の感慨めいた言葉に、山崎は少女の額に濡れ手拭いを乗せながら目を細めた。
**************
「…近藤さん。あの娘、大丈夫だったんですか?」
「……あぁ、総司か。…うむ。とりあえずは安定した、という事だ」
「へ~、そうなんですか」
親しげに文机の横を陣取った沖田に、手を止めて顔を向ける。
「何だ、総司。気になってるなら見舞いに行ってやるといい」
「う~ん、そうですね。でも俺、この後巡察行かなきゃいけないんですよ」
ニコリと笑った沖田にあぁ、と頷く。
「あぁ…、そうか。今日は一番隊も当番に割当たってるんだったな」
「えぇ。…近藤さん。あの娘がもし不審な行動したら、俺は斬りますよ」
真剣さを帯びた声音に、近藤の顔が強張った。
「…総司。だからそういうことは……」
「……なんちゃって。ははは。やだなぁ、近藤さん。巫女なんだったら大丈夫でしょう? もしも、の話ですよ」
朗らかに笑ってみせる沖田だったが、新選組に仇なす者には容赦しない彼の事だ。
――近藤の顔は一向に晴れないままだった。
少女と彼らの長い話はまだ始まったばかり。
思惑渦巻く夜は、そうして静かに更けて行った――。
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